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阪神高速道路(株)吉田光市社長  【2023年07月31日掲載】

“チャレンジングの道” ひた走る

「阪神高速」の大きな目標

万博がもたらすさらなる飛躍



 関西における高速道路網整備を担う阪神高速道路鰍ナは、現在、ミッシングリンク解消に向けた道路ネットワーク整備とリニューアルプロジェクトに取り組んでいる。また、今年度からスタートする中期経営計画では、「サステナビリティ経営」を掲げながら、大阪・関西万博に貢献し、未来社会を描くアクションプランとして先進的な試みにもチャレンジしている。これらの取組みにあたっては、社内外からの知恵やアイデアを結集し新工法等の開発に取り組んでおり、吉田光市社長は、「100年先、200年先を見据えて良いものを造っていく」と語る。その吉田社長に今後の事業展開等について語ってもらった。

   ネットワーク整備/リニューアルプロジェクトフル稼働
      淀川左岸線2期、大阪湾岸道路西伸部/14号松原線喜連瓜破付近、3号神戸線等
  今年度の事業計画

■まず初めに今年度の事業活動についてお聞かせ下さい。

 財産である卓越した技術力が真価発揮 世界最大の斜張橋、大深度地下空間

 現在は、ミッシングリンク解消に向けたネットワーク整備とリニューアルプロジェクトに全社的にフル稼働の状況で取り組んでいます。ネットワーク整備では、淀川左岸線2期と延伸部、大阪湾岸道路西伸部の事業を推進しています。
 淀川左岸線2期は、当社と大阪市の共同事業で進めています。2025年大阪・関西万博会場へのアクセスルートにもなる予定で、開幕時には暫定利用になりますが、しっかりと機能するよう全力で取り組んでいます。淀川左岸線2期に接続する延伸部に関しては、河川堤防との一体構造や大深度地下空間の活用など、技術的に難易度の高い工事となることが予想されていることから、その辺も含めた基礎調査を実施しています。
 大阪湾岸道路西伸部は、陸上部の駒栄地区と六甲アイランド地区での工事が行われていますが、海上部の長大橋については、これも技術的難易度が非常に高くなっています。風力や耐震性などあらゆる角度から調査を進め、設置予定地の地盤も良好とは言えないことから、産官学で構成する技術検討委員会で検討が進められていますが、早期に検討結果をお取りまとめいただき、当社としては次のステップとなる上部工の詳細設計に着手できればと思っています。
 リニューアルプロジェクトに関しては、大規模更新事業として14号松原線喜連瓜破付近で橋梁架け替え工事を2022年6月から実施しています。工事は3年間にわたる通行止めを予定しており、ご利用の皆さまや周辺にお住まいの皆さまにはご迷惑をおかけしていますが、お蔭様で工事は順調に進捗しています。着手から一年が経過しましたが、技術的に難工事であった架設桁を利用して既設桁を撤去する工事を無事終えることができ、一つの大きなヤマを越えることができたかなと思います。今後は新設桁の架設に向けた工事を進めていきます。
 3号神戸線では、京橋から摩耶までの構造物の長寿命化対策としてコンクリート床版の取替えや、高性能床版防水やSFRC舗装とともに、劣化した舗装や伸縮継手の補修等を実施し、6月7日に無事終えることができました。大動脈の真ん中を19日間に亘って全面通行止めとして実施することについてはかなり思案しましたが、広域迂回の周知の効果もあったのか、皆さまのご協力のおかげで、大きな渋滞や混乱もなく終えられたことに感謝いたしております。
 大規模更新事業ではこのほか、3号神戸線湊川付近と15号堺線湊町付近の工事も順調に進捗しており、大規模修繕事業の阿波座付近も万博までには工事を終えます。これらリニューアル工事に関しては、今後も引き続いて実施していきます。
 また、パーキングエリア関係では昨年、泉大津本線料金所跡地に大型車専用エリアを設置しました。ここは木材を使用したドーム状の円形空間の施設が特徴となっています。このほか新中島でも計画を進めていきます。

  技術開発の取組み

■これらの工事では技術や工法で新たな試みが取り入れられておりますが、それら技術開発の取組みは。

 コミュニケーション型共同研究の成果も  ウォータージェット工法等

 卓越した、技術力は当社の財産だと思っています。大阪湾岸道路西伸部での海上橋は世界最大の斜張橋であり、淀川左岸線延伸部の大深度地下空間など、非常にチャレンジングなものとなっています。これらの取組みにあたっては、我々だけでなく産官学の英知を結集した成果です。また、リニューアル工事の場合、当社のような都市高速道路では、工期面をはじめ多くの制約が課せられていることから、いろんな智恵が求められます。特に施工面では、施工業者の方々からアイデアを提案していただくこともあります。
 我々はコミュニケーション型共同研究と呼んでいますが、何か一つをテーマに一緒に研究し、そこで新たな技術が開発されています。今回の3号神戸線では、一部の床版取替え工事にあたりウォータージェット工法を採用し、短期間で工事を終えることができました。
 この工法は、3年前の1号環状線南行リニューアル工事で初めて採用されたものです。床版はコンクリートとボルトで接合されていることから、既設床版を剥がすには時間と労力がかかりますが、ウォータージェットで、先にコンクリートを剥がし、その後露出した鉄筋部分を切断するものです。前回の工事では予めウォータージェット工法で鉄筋部分を切断しておいて、通行止め期間に桁を撤去したことで、通行止め期間を短くすることができました。同工法はまさしくコミュニケーション型共同研究の成果の一つといえます。
 これ以外に、取替えた床版も、同じくコミュニケーション型共同研究で開発された軽量で、高性能のUFC床版です。さらに、床版の架設にあたっては、これも同じく共同研究で開発された専用の架設機を道路の上に設置して順次、架設していきます。通常は高架下の一般道路からクレーンで吊り下げて行いますが、都市部の交通過密区間では作業スペースが制限されることから開発されました。

■なるほど。

 開発にあたっては、ゼネコンや専門工事業者の方々にも協力をいただいています。特にウォータージェット工法では、工事の水が下に流れないようにすることが求められますが、環状線南行リニューアル工事ではそのための足場が組まれ、文字通りの「水も漏らさない工事」を実現しました。こういった技術や工法の開発は、当社のように都心部における施工条件の厳しい中での工事では、我々だけでなく施工業者の方々の知恵や技術がどうしても必要になります。このため相互に連携しながら、ある意味オープンイノベーションの取組みが必要になります。
 また、今年度からスタートした中期経営計画では、サステナビリティ経営として脱炭素化へも取組みます。脱炭素の取組は非常に幅が広く、いろんな分野に関係しており、そういった観点からできることを追求していこうと考えています。一例を挙げますと設計段階においてCO2を吸収するコンクリート等の低炭素資材の採用を検討したり、施工面では低炭素の建設機械を使用するなど、建設企業や資材メーカー等と共同で研究を進めていくことも必要ではと考えています。技術開発においては、いろんなことを考えていく必要がありますが、やはり我々だけではなく、施工業者の方々からアイデアを出してもらいながら、取組みを進めていきます。

  中期経営計画発展

■その中期経営計画での取組みでは。

 サステナビリティ経営で脱炭素化へ  DXによる安全・安心・快適

 今年度から2025年までの新たな中期経営計画です。前計画では、2030年を目標とした阪神高速グループのビジョンの下、これまでCSR経営を中心に据えていましたが、それをさらに発展させてサステナビリティ経営としました。最終年度が2025年の大阪・関西万博の年であることから万博までにやるべきことの方向性を示したアクションプランと考えています。
 事業では、淀川左岸線2期事業(暫定利用に向けた対応)や喜連瓜破付近の橋梁架替え、阿波座付近等の大規模修繕工事を開幕までに整備します。また、脱炭素の取組みとして環境行動計画を改定し、チャレンジする項目を掲げています。DXへの取組みでも2021年7月にDX戦略をまとめており、この実行段階に入っていきます。DXの取組みは大きく分けて「シームレスで高度なインフラマネジメントの推進」、「パーソナライズされた安全・安心・快適なモビリティサービスの実現」の二つです。
 シームレスで高度なインフラマネジメントは、設計から建設、維持管理までデジタル化して一気通貫で効率化を図るものです。インフラ関連のDXについては、各企業が様々な取組みを進めていますが、当社としての新たな試みとして設計から維持管理までのシームレス化を打ち出しました。既に、設計でのBIM/CIM化をはじめ、デジタルツインを使って耐震化や老朽化に関する分析を実施しています。
 維持管理では、当社では管理延長約260キロのうち8割が連続高架橋の橋梁であり、これら構造物をしっかりとメンテナンスすることが実は大変な作業になります。このためDXでは、従来の3次元データに新たに時間軸を付加して4次元化し、劣化予測や長寿命化手法等を導きだす、他に例を見ない独自の橋梁管理システムの導入に取り組んでいます。
 パーソラナイズされた安全・安心・快適なモビリティサービスでは、自動運転や都市型MaaSなど様々な取組みがある中で、お客様に対して最終的にどのようなサービスを提供するかで、我々として将来を睨んでできることをやろうと考えています。特に万博は未来社会の実験場と言われています。その中で博覧会協会では当社のETC技術を活用した取組みを検討されています。
 これは会場周辺にある駐車場の利用にあたって、一般道路への負荷を軽減するため阪神高速の空いている路線へ誘導し、それらの経路を利用された車については駐車料金を割引するといったサービスです。その経路を把握するにあたって当社のETCデータを活用するもので、当社としては経路情報を提供することで、来場者輸送の円滑化に貢献出来ればと思い、現在、博覧会協会と近畿地方整備局と連携しながら進めています。
 もう一つは、淀川左岸線に会場輸送用の自動運転シャトルバスを走行させるための取組みを進めています。この中では、本線への合流部分で死角が生じることから、本線からの情報をセンサーが感知してシャトルバスに伝達する合流支援に関する取組みで、国や大阪市、バス会社とともに走行実装に向けた研究を進めています。これらの取組はまさしく中期計画での取組みとなります。

 働き方改革 若い人が未来予想図描ける環境に
 
 100年200年後を見据えて  レベル5の自動運転も

■さて、現在は働き方改革への取組みが課題となっており、特に建設業には大きな問題ですが、発注者としての立場からの取組みについて。

 働き方改革に関しては、建設業界に限らず全産業の課題でもあります。飲食業やホテル業界でもコロナが沈静化しても働き手が戻ってこないなど、苦労されています。そのベースにあるのは少子化で日本全体の問題でもあります。特に建設業では、早くから担い手確保が課題で、他産業に比べて先行した取組みが行われてきました。勿論、我々としても発注者としてしっかりと取り組んでいく必要はあります。
 担い手確保では、若い人達に建設業界に入ってもらうだけでは追いつくものではなく、女性活躍と外国人労働者の確保が必要です。外国人労働者の場合、技能実習生から始まり特定技能の制度ができましたが、現在は制度の在り方を巡って国で更に議論されています。また、円安の影響で日本に来なくなってきています。加えて、これまでは65歳以上のシニア世代に頑張っていただき、その間に若い世代に入ってもらい技能や技術の伝承を行おうとしていましたが、今やシニア世代も70歳以上が増えてきました。やはり若い人が入ってくる環境を整備することが重要ですね。
 そのためには賃金も勿論、重要ではありますが、その業界に入った後、20年後や30年後の自分がどうなっているかの未来予想図を描けるようにしてあげられなければなりません。若い人の一生を引き受ける覚悟が必要です。それには元請や専門工事業者はもとより、我々、発注者が一緒になって環境を整えていかなければなりません。
 その一つとして建設キャリアアップシステムが始まり、普及しつつありますが、これらは一つの契機になると思っており、これらを活用しながら、若い人達に建設業を選択してもらえるよう、やりがいや誇りを持てる産業となることが必要で、我々も協力していきます。
 また、来年度からは時間外労働の上限規制も始まる中で土曜閉所も含めた完全週休二日を進めなければなりません。
 特に、万博でのパビリオン建設工事もなかなか進んでいないというかなり厳しい状況ですが、関西の建設業界として乗り越えていかなければならない問題で、万博を契機に成長するはずが、疲弊してはいけませんので。

  第1世代 第2世代

■万博には、それを起爆剤として成長を促すといった目的もありますが、そもそも阪神高速道路の整備も前回の万博が契機でした。

 そうなんです。当社の前身である阪神高速道路公団の創立が1962年で、環状線の土佐堀から湊町までが最初の開通区間で、そこから池田線が伸びていき、大阪万博を機に現在のネットワークの中枢部分が形成されました。環状線と神戸線、放射状に伸びる池田線、守口線、東大阪線までが、都市内交通の混雑解消のためのネットワークで、私は第一世代ネットワークと呼んでいます。
 それに対して第2世代ネットワークとして、全線開通した大和川線のほか、整備中の淀川左岸線(2期・延伸部)、大阪湾岸道路西伸部に取り組んでいます。このネットワークは、関西圏の多様な都市を広域につなぐ関西の活性化には不可欠なもので、今後も鋭意工事を進めていきます。
 その一方で、第1世代が供用から50年が経過し、老朽化が進んでいることから冒頭に申しました路線においてリニューアルを進めています。このうち喜連瓜破付近橋梁のリニューアルは、大和川線が開通していなければできませんでした。大和川線があったことから広域迂回路が確保でき、3年間の通行止めが可能となりました。このように新しいネットワークを活用しながら古いネットワークに手を入れることで、ネットワーク全体をサスティナブルなものにしていく。時代のさきがけと言えます。
 先の万博で中枢のネットワークができ、今回の万博を契機として広域的なネットワークを作り、新しいネットワークを活用して先輩方が残してくれたネットワークをリニューアルし、さらに後世に引き継ぐことが我々の使命だと思っています。
 またモビリティに関しては、1969年に我が国では初めてとなる交通管制システムを阪神高速で導入しました。当時の技術者がアメリカに留学して持ち帰ったもので、トラフィックカウンターで通過車両を計測する簡単なものでしたが、渋滞情報として実施しました。現在ではかなり進化し4代目の管制システムが稼働しています。
 交通管制は、渋滞情報や事故情報等に関し、各種センサーで車両情報を感知して分析を行って情報伝達するものですが、現在では感知センサーも高精度化しており、分析作業もスーパーコンピューターやAIを駆使していくこととなります。加えて、伝達も今後は5G等を活用して大容量・高速で行うことになると思います。車と道路の間で情報のやり取りが、このように進化していくと、渋滞や事故のない最適な経路が路車協調により誘導されるレベル5の完璧な自動運転が可能になります。
 先程申しました合流支援についても、局所的なものですが、それが高速道路全体に広まっていけば、このような路車協調型のレベル5の自動運転につながっていくと思っています。今回の万博ではレベル4ですが、これは未来社会の実験場でありゴールではなく、その先のレベル5を目指して取り組んでいきます。

■なるほど。

 そういった意味では、万博と当社は縁があり、当社も関西に根差す企業として、今回も万博の成功を願い、万博を機に次の世代にレガシーとしてネットワークやモビリティ等において、新しい技術にチャレンジし、しっかりと残していきたいと思っています。そのため建設業界の方々は大切なパートナーであると思っています。
 現在、ネットワーク整備を進めていますが、広域ネットワーク構想自体はかなり以前からありました。大和川線にしても、前回の万博前から計画され、用地買収に着手していましたが民営化に伴い休止となっていたもので、再開にあたっては大阪府との合併施工方式で実現し、三年前に開通し、その後残工事も今年でようやく終了しました。いずれにしろインフラ整備は長期にわたる息の長いものであり、その時々の社会情勢等により影響は受けますが、芯となる部分はぶれることなく100年後、200年後を見据えて良いものを造っていきたいと思っています。

■ありがとうございました。

 
 
 


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