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interview
近畿地方整備局 塚田幸広企画部長  【平成22年7月29日掲載】

総合評価方式の導入・拡大へ新機軸

品質確保は全ての発注者の責務

市町村向けに「事例集の作成」
 


公共工事の品質確保に向けて、国土交通省近畿地方整備局は、新たな総合評価落札方式に取り組んでいる。すでに地元企業を下請として活用した場合、それを評価項目に追加する地元企業活用審査型を試行しているのをはじめ、今年4月からは現場での品質確保向上を図るため、基幹技能者の配置を評価する項目も加えた。さらには地方自治体らの普及促進を図ることを目的に、事例集の作成や審査会などでの職員交流、講習会や研修会の開催を目指している。そこで、近畿が先導的な役割を果たしている技能者の評価や日本文化の継承などについて、近畿地方整備局の塚田幸広企画部長に聞いてみた。(聞き手・本紙代表取締役中山貴雄、文・水谷次郎)

■一般競争入札の拡大や総合評価方式の導入・拡大では、国土交通省の実施状況は非常に高い割合を示しています。ところが地方自治体に目を向けますと、いずれもさらなる導入・拡大が必要とされていること、相変わらずダンピングが目立つなど、まだ多くの課題を抱えています。特に予定価格などの事前公表では、くじ引きが多いのに疑問を感じています。それによる品質の低下も懸念されています。まず、そのあたりから総合評価方式の在り方、今後の方針などについてお聞かせ下さい。

塚田部長

平成17年4月に品確法が制定され、公共工事の品質確保は、全ての発注者の責務になりました。これを受けて、近畿ブロックでも7月に3回目の発注者協議会(国の地方支分局、地方公共団体、特殊法人ら全58機関)が開かれました。私は、いまの総合評価方式が最終的にベストの姿なのかと言われると、まだ私たちもいろんな試行を重ねている最中で、「進化形」だと思っています。上総局長もその席で、同じ様な話をしていました。進化していることは非常に大事なことだと思っています。今年4月には総合評価方式が改定され国土交通省直轄工事で、透明性を担保する意味で、本省の方から提案のあった業者に評価結果を通知することなど、7項目を盛り込んだ取り組み方針が示されました。

■まだ発展途上だと。

塚田部長

はい。出来るだけ効果的・効率的に、また、評価する私たちも、スピーディーにノウハウをフル活用して評価したいと考えています。単に丁寧に、詳細に実施すればいいというのではなく、ノウハウを活用して実施していくことは、導入・拡大が遅れている市町村らの地方自治体にとっては大きな参考になり、取り組みやすいと思います。今回の発注者協議会では三つの対策案が検討され、参加機関の賛同を得ました。

■具体的に三つの対策案を教えて下さい。

塚田部長

この三つの対策案は、総合評価方式の導入・拡大について地方公共団体などにアンケートやヒアリング調査を実施した結果に基づいたものです。まず「事例集の作成」。国の直轄工事の例を示しても難しくて複雑、かつ発注工事の額も大きく、難易度の高い工事が多くあります。このため市町村レベルまで広げていこうとすれば、非常に簡易な、例えば市町村で適用が多い道路工事などを対象に、評価項目や評価内容などを盛り込んだ事例がいいのではないかと。市町村でも実施できるというムードを作っていこうというわけですね。やはり、これまでのような形式的なものだけでは、なかなか進まない。もっと具体的なものを作成して示すことが大きなポイントです。二つ目は「審査会などにおける職員交流の推進」。府県などが開く技術審査会などへ、近畿地方整備局の専門家あるいは工事事務所の副所長クラスを派遣して交流を深めたいと思います。審査を主催する側からすると、そこに第三者が入ることによって客観性が担保されることになります。三つ目は「講習会や研修会の開催」。これをしっかりやっていこうと。公共工事の品質確保向上を目的とした総合評価方式の導入やダンピング契約などについて、国や府県連携による講習会を各府県で年内に開催する予定です。

■研修会は、どのような内容になるのですか。

塚田部長

すでに私どもの近畿技術事務所で技術研修を行っています。その内容は、総合評価方式を主体としたノウハウをカリキュラムの中に入れて、各自治体の人に入っていただいています。いずれにしても、総合評価方式を広めていくためには時間がかかります。今回の発注者協議会でも、それぞれ機関の導入状況など、データをつぶさにオープンし、それによって各機関に取り組みのポジションニングを知っていただくようお願いしています。どれだけ実効性が上がっていくかは、今後の取り組み次第です。一つずつしっかりボタンをかけていくことが大事だと思っています。一度導入した機関が、その後も導入しているかと言えば、必ずしもそうとは言い切れません。いかに永続性を担保していくかでしょうね。

■先ほどお話がありました直轄工事で改定された取り組み方針で、業者の反応はいかがですか。

塚田部長

評価結果の通知などに関しては、まだ業界の方々に必ずしも正確に感想を聞いているわけではありませんが、基本的に業者にとってはポイントを絞りやすく、 非常に提案しやすくなり、総合評価方式が分かりやすくなったと思いますね。標準T型では、現場の状況、環境面など1〜2のテーマに絞って技術提案を求めています。例えば橋を架ける場合、現場が軟弱地盤であると、それに対する技術を求めるというもの。業者が実際現地に行ったり、図書も閲覧できるようにしております。これによって4月以降は、現地に対応できるような提案が目立ってきたように思います。パソコンのキーワードを入れると、標準的な答えが出てくるのとはわけが違う。そこは評価する私たちも、しっかり捉まえて、きちんと評価結果を通知していくとが大事だと思っています。試行してからは技術提案を整理する段階で時間が短くなりましたが、一つ一つの提案の審査に時間を要しています。これからも簡単なものは出来るだけ簡易な方法で、そうでないものはしっかり技術力を審査する方針で進めていきたいと思っています。

■コンサルタント業務も同じ方針ですか。

塚田部長

はい。工事の場合は組織ということで企業、もちろん監理技術者なども評価しますが、コンサルタント業務は、どちらかと言えば技術者を評価したい。 技術者の存在が大事で、通常だと会社と技術者の評価割合が5対5であるところを、これからは4対6の割合で技術者にウエートを置いた評価の試行をしたいと考えています。

■ところでダンピング対策は進んでいますか。

塚田部長

工事については施工体制の確認を行ってから、ダンピング対策としても効果が出てきました。一方、コンサルタント業務は工事のような仕組みがこれまでありませんでした。 そこで6月発注の公告分から、技術者に報酬がきちんと支払われているかなど、履行確認を行うことにしました。履行していなければ割引率がかかってくるわけですね。 評価率といった方が分かりやすいかも知れません。これも発注者協議会で詳しく説明しております。ダンピングや低入札は、品質が落ちるばかりでなく、事故が多い。 下請にもしわ寄せがいくという実態もデータもあります。そこをしっかり担保していくのは、必要不可欠なことだと思っています。業務も同じですね。


全国に先駆けて基幹技能者を評価

地元企業の活用で雇用も促進

■話は変わりますが、基幹技能者の評価についてお聞きします。

塚田部長

今年4月から総合評価方式の評価項目に、基幹技能者の配置や能力の評価を加えました。4月の公告で始めて採用した海老江地区築堤工事の標準T型では、 登録基幹技能者に1点、基幹技能者に0.5点を加算しています。配置を求めた対象基幹技能者は、とび、土工、機会士工となっています。採用に当たっては、 専門工事業の方からの意見も反映させ、また、総合評価委員会の中でも議論をしていただきました。京都大学で建築を専門に研究されているある教授は、 「建築の下請で床や塗装などに従事している専門業者が、報酬も含めてしっかり評価される環境でなければ、良いモノは出来ないと」言っておられましたね。 専門業者中でも代表的な業者が基幹技能者です。

■技術者と技能者の役割分担について教えて下さい。

塚田部長

技術者は基本的にしっかり現場をマネジメントすることでの役割、一方、技能者はある専門的なところで良い品質のモノを直接的に作りあげるための 技能を有している者と言えるでしょう。これまで技能工に対する評価が少し薄かったように思います。現場での作業管理や調整能力を発揮していただく基幹技能者の役割は大切で、 近畿が全国に先導して技能者の評価を高めていきたいと思います。

■昔から近畿の技能は高いと言われていました。

塚田部長

昨年開かれた「建設技術展2009近畿」でベストブース賞に鉄筋組合が選ばれました。私は非常に感動しましたね。若手がモノづくりの技能に対して、 非常に熱意を持って取り組んでいることを、分かりやすく、また、工夫を凝らして展示されたことに、審査委員会(塚田委員長)の満場一致で決まりました。 これまで鉄筋のみならず、技能者は縁の下の力持ち的なところがあったかも知れません。これからは技能者が「見せていく」、これが一つの流れになっていくように思いますね。 逆に「見られている」ことで、おかしなことは出来ない。いろいろな面で、良い方向へ繋がりるものと期待しています。

■おっしゃるとおりです。技能者も積極的に「技」をアピールしていかなければいけないということですね。

塚田部長

そうですね。大事なことは、元請の適正な価格での落札に目を向けるのと合わせ、下請にも適正な賃金が支払われていること。そうすると技能者や現場の人たちの 報酬も担保され、それによって人材の確保、様々な業種の面での育成も促進される。一つのモノを作るという過程の中で、まだ品質や安全、それに下請に対する課題がありまが、 これらをしっかり担保しなければ建設業界あるいは関連業界という大きな軸でみますと、この業界に果たして人が入ってくるだろうかという心配があります。 大学や高校などの就職先をみても、建設業を希望する学生が減少していますね。建設業界に入ってくる学生の質も落ちているような気がします。今後は大きな施策として、 新たなインフラを作ることも含め、既存のインフラをしっかり維持させていく技能者や技術者を育て、若い人たちに魅力ある環境を創出しなければいけないと思います。 これは官側も民側も、それから産や人材を送る学も同じこと。逆に学にしても、優秀な学生が入って来なくなる。各分野に連鎖します。

■その意味でも基幹技能者の評価を高めていくと。

塚田部長

ええ。業者の賃金の不払いだけではなく、やはり私たちが大きなミッションとしている国土の管理やインフラの役割などについて、私たちも単にPRするのだけでなく、 きちんと説明していくことが必要で、これが大きなテーマだと思っています。例えば災害対策。今年も災害が多いですね。災害現場はニュース性がありよく報道されますが、 復興された現場は意外と報道されない。国民も、地震、台風、水害など被災地の現場をよく目にしますが、それを予防している現場、復旧・復興の現場はあまり知らないと思います。 また報じられる機会も少ない。このように災害だけをみても、建設業が国の財産や国民の生命を直接守っていることを様々な人に報道していただきたいし、また、 私たちも国民に知っていただく努力をしていかなければならないと思います。

■それにしても職人の現実は非常に厳しいとよく聞いています。一般の人は現場で働いている状況をほとんど知らないようですね。

塚田部長

私たちが建設業以外の他の分野を知っているかと言えば、あまり知らない。それと同じでしょう。技能者は誰が守っているのかと言えば企業ですよ。 企業が技能をある一定以上キープしています。どの企業でも、商品に欠陥があれば企業が直接責任を負う。逆に良いモノが出来なければ売れない。建設業も同じで、 技能者がいることによって効率的な現場のコミュニケーションの役割が果たせる。そして企業にとっても良い結果をもたらす。良い技能者がいなければ、 現場での仕事がスムーズにいかず、現場に支障が出る。公共事業の現場を会社に置き換えれば請負会社というレベルなのか、もっと広い意味での公共事業の工場なのか ということになります。

■自治体の基幹技能者の活用はいかがですか。

塚田部長

自治体も非常に高い関心を持っておられます。むしろ自治体の方が身近なところで顔が見えやすい。私たちが保有しているデータ、評価している根拠を明確に、 また客観的に示し、自治体でも技能者の活用を促しています。

■雇用促進の面から地元企業活用審査型は、あらゆる面で大きな役割を果たしているとみていますが…。

塚田部長

建設業の場合、よくフローとストックという言葉が使われますね。ストック効果というのはこれまで培ってきたものを有効に活用すること、 フローはまさにコンストラクションする時に生まれる様々な雇用。建設現場では、雇用が生まれるというフロー効果があり、これは非常に大きい。高速道路などを建設すれば、 いろんな意味で1割以上の雇用が生まれるとよく言われます。建設が雇用を受け入れる大きな土俵であることは、間違いないと思いますね。また、それが呼び水となって 地域が発展していくことは一般論として十分あり得ると思っています。

■それにしても地元の建設業者の役割は大きいですね。

塚田部長

昨年、兵庫県の佐用町で大水害が発生した時も、地元の建設業の皆さんには盆にも関わらず出動していただき、ぎりぎりのところで応急復旧を果たすことができました。 機材の調達や人材など、地元ならではの作業であり、本当に感謝しています。将来発生するであろう東南海・南海地震も懸念されています。その面で、国や府県、関係機関、 そして建設業者と連携の体制を構築していくことは非常に大切なことだと思います。

■最後に日本文化の継承について。

塚田部長

関西に赴任して2年が経ちました。関西の特徴である様々な古い遺産、文化的な資産、継承したい風景などにふれるたび、いつも歴史豊かで文化に恵まれた 地域だと痛感しています。つい先日も奈良の室生寺に行ってきました。この寺の五重塔は、数年前の台風で近くの大木(杉)が倒れた際に屋根を直撃し被害を受けたことは 記憶に新しいと思います。すでに修復を終えています。個人的な話ですが、私が山形県の酒田工事事務所所長に就いていたころ、土門拳記念館の写真をよく見ていました。 すると、いつも室生寺の五重塔やいろんな仏像などが出ていました。実際、室生寺を見て、この塔は日本文化として残すべき遺産だと強く感じましたね。これからは火事、 台風、地震などの災害にあった遺産もいかに守っていくかでしょう。ある大学では、その研究も進めています。合わせて私たちも、いま使える技・技術によって原型を整えながら、 しっかりと補強していかなければならないと思っています。

■景観面では、どのような技術を使われていますか。

塚田部長

京都・祇園の花見小路通では、電線の地中化が終わりました。
「電線地中化」の新技術を使うことによって、昔の風景を再現し、賑わいが戻っています。奈良では平城遷都1300年祭が行われています。 そのメーン会場である平城宮跡第一次大極殿広場も、国営飛鳥歴史公園事務所が急ピッチで整備しました。この広場の整備の特色は、 地下には多くの遺構が眠っており施工に制約があったことから、「情報化施工」を採用しました。古いものを守りながら古さを生かす目的で、新しい技術を使ったわけです。 今後も地下を整備する技術、部分的に補強する技術によって様々な資産や文化を守り、また磨いていくことに重点を置いていきたいと考えています。

■技術の価値ですね。

塚田部長

はい。風景は国民が一番よく接するところ。私は北海道の出身ですが、小さい頃にみた風景と今日の風景との見方は違います。それぞれの人が持っている 価値観はジェネレーションによって変わっていきます。どのジェネレーションでも理解できるような風景、インフラでなくてはいけないと思っています。

■私もその通りだと思います、きょうは、大変お忙しい中、貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。建設業の新たな躍動に期待しています。

(つかだ・ゆきひろ)昭和56年3月北海道大学工学部土木工学科卒、同年4月土木研究所入所、平成7年7月土木研究所材料施工部施工研究室長、10年4月東北地方建設局酒田工事事務所長、12年4月同建設局企画部企画調査官、13年1月東北地方整備局企画部企画調整官、14年4月総合政策局建設業課建設業技術企画官、16年4月国土技術政策総合研究所道路研究部道路研究室長、18年7月道路局道路交通管理課高度道路交通システム推進室長、20年7月近畿地方整備局企画部長。北海道出身、52歳。


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