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interview
UR都市機構西日本 糟谷支社長  【平成22年9月16日掲載】

適正な利潤上げながら街づくり

大阪北ヤードなどで地域活性化
 


わが国の住宅政策の一翼を担い、良質な住宅の供給に務めてきた独立行政法人都市再生機構。組織や形態に変化はあっても、居住者ニーズへの対応やまちづくりへの役割は変わらない。今年7月に就任したUR西日本支社の糟谷明人支社長は、民間出身としての経験を生かし「適正な利潤を上げながら街づくりを進めたい」と意欲を見せる一方で、やりがいのある職場づくりのサポートを心掛ける。その糟谷支社長に抱負や今後の取り組みについて聞いてみた。

 大きな期待ひしひしと

■まずは就任にあたっての抱負をお聞かせ下さい。

糟谷支社長

大丸に入社後、まる40年過ぎた段階で、今回、都市再生機構に就任させて頂きました。これまでの40年の職業人生の集大成として、今までの経験を街づくりに活かしていきたいと思っております。関係機関へご挨拶に伺った際、機構への期待が大きいことを感じ、この期待に応えることが街づくり、ひいては地域の皆様に喜んでいただけること、それが私にとっての役割であると考えております。

■応募の動機は。

糟谷支社長

URを知ったのは昭和52年に勤務した大丸長田店の上階が公団住宅でした。当時はまだ詳しい事業内容は理解しておりませんでしたが、契機となったのは阪神淡路大震災で、従業員の安否確認や物資供給の手配をする中で、URが復興支援に積極的に携わっているのを知り、いつか街づくりに関わってみたいと思いました。建築物は後世に残る物で、物づくりや街づくりに携われることは大きな喜びとなると考え、人生の最後を懸けてみたいと応募いたしました。

■生かしたい経験とは。

糟谷支社長

やはり経営という視点だと考えます。半民半官とはいえ、限りなく民間に近い事業体であるという思いがあります。任期が2年ということもあり、適正な利益を確実にあげていくことに的を絞って取り組んでいきたい。それにはいろんな仕掛けが必要で、職員の上げた業績が直に仕事へ反映されたり、やる気を起こす職場風土にしたりと、いろいろな施策を通じてはじめて業績達成や目的に近づいていくと考えております。

 URの仕事ぶりをPR

■就任されて1カ月ほどになりますが、URに入られての感想は。

糟谷支社長

就任までの2週間でいろいろ調べる中、URのことを批判する内容であったり、事業仕分けのことを耳にしましたが、入ってみて決してそれだけではないとの思いを強くしました。国民に誤解を受けていることも多く、そういう問題がクローズアップされていると思いますが、中に入って仕事をしてみますと、本当に仕事と真摯に向き合って街を良くしよう、また、賃貸住宅に住んでおられる高齢者や、子育て世代の方々に一生懸命サービスを尽くそうとしている職員が世間から誤解を受けないように、我々が正しいURを知っていただくためにPRをしていくべきであると思っております。

■関係機関からの期待とは。

糟谷支社長

今、資金がないとか財源がないといわれていますが街は活性化し、再生しないとさびれ、そうなると住民が減り人も集まりません。特に駅の周辺などを活性化して、若い人を集め住民を増やしていきたいという思いが、どこの自治体にもあると思います。しかしながら財源がない現状では、私たちが代わって民間と協力して街づくりをしていくということが、最大の役割であり、当機構の主たる業務であると思っております。

■しかし、機構としても経営上利益を生む必要はあります。

糟谷支社長

なんでもかんでも利益を出せば良いということではありませんから、半民半官、限りなく民間に近いとはいえ、やはり適正な利益というのが必要で、時には少しの利益でも地域の方々に還元できるようなものができればと考えます。例えば高齢者の問題などは一緒に考えながら解決していくということがなければ、良い街ができませんし、良い賃貸住宅の運営・再生には結びつかないと思っております。

■現時点で具体的な街づくりの計画は。

糟谷支社長

都市再生としては、大阪北ヤードを含めた街づくりを通して地域を活性化させることが期待されている一つだと思っています。大企業が大阪から東京に本社を移し、経済的にも地盤沈下しているということも見聞きしていますが、やはり再生するためには、日本だけでなく、アジアのゲートになるような街づくりをするべきだと思います。お蔭様で第1期事業が高く評価されており、第2期事業ではそれに見合う、また、期待に沿えるような事業を展開していきたいと思っております。ただ、計画当初よりも経済状況が厳しくなっており、時代に合ったことをやっていかないと、民間企業が対応しきれない部分もあり、自治体と民間企業の方々と話し合いながら一番ベストな方法を探っていきます。

 団地の個性に合わせて

■団地再生事業も大きな柱となります。

糟谷支社長

今後、昭和40年代から50年代前半に建設した住宅をどの様に再生していくか、今までの様に全てを建替えると言うことは大きな課題となっています。資源を大事にするとか、環境問題等から現在、ルネッサンス計画1として向ヶ丘団地でストック再生実証試験を行っており、先日、見て参りました。バブル期には古いものは建て替えることが経済的であると言われていましたが、そうではなく、ヨーロッパのように古いものを大切にし、新しいものに置換えながら高齢者に優しい街、子育て支援のできる街であったり、若い世代も住めるような環境を整備するソフト面を充実させたい。当然ハード面も変えていかなければなりませんが、ソフト面で我々がサポートしていく必要があります。団地には長い年月の中でそれぞれの個性が備わってきていますので、その個性に合わせた機能、サービスを側面的に援助する必要があると思います。

■関西以外での取り組みや計画をお聞かせください。

糟谷支社長

広島では広島駅北側で二葉の里地区の計画があります。地方都市についても様々な街づくりの課題を聞いております。それらについて地域の特性に応じた街づくりのお手伝いが出来たらと考えています。

 やりがいのある職場に

■ところで職員に対する要望や期待は。

糟谷支社長

第一線で頑張っている職員に対して目を向け、本当にやりがいのある機構であったり職場づくりをサポートする必要があると思います。一つのテーマを持っておりまして、「最小のコストで最大の成果をあげていく」というのが経営の根幹だと思っております。あまり経費をかけず、企業価値や顧客満足、その中に職員の満足、さらに同じ手を携えてやっていただける取引先の満足があると思います。顧客の満足は国民や地域、居住者の方々ですが、職員が頑張らないと、居住者に対して良いサービスは提供できませんし、また、取引先に対しても良いアドバイスができず、質の良いものができません。それを実現するためには、やはりコミュニケーションが一番大事だと思います。

■なるほど。

糟谷支社長

信頼関係がベースになるコミュニケーション。上下のコミュニケーションはよく言われますが、左右いわゆる同僚であるとか他部門、内外は内は機構の中であり、外はお客様や取引先であったり、自治体であったりです。前後とは、歴史上で過去のことを振り返り、この先を読み、どのようにしてくか先輩に教えられ、また、次の世代に言い伝えていくような、そういったコミュニケーションを大事にしていくことが、第一戦で働く職員にとって一番重要なことで、やはり第一線で働く職員の意見がトップまで即座に上ってくる。そういう組織づくりを考えております。

■具体的には。

糟谷支社長

現場三現主義と言いまして、現場・現実・現物があります。やはり直接、現場の人と話をしたり、現物を見たりというのが大切になってくると思います。この三現主義を徹底していこうと思っております。

■建設業界についてのご意見は。

糟谷支社長

建設業界に対する違和感はないのですが、以前までは、固いイメージがありました。しかし、現場にたってみて、一人一人が良い建物を造る、良い街を造るために、それぞれの役割に応じて一生懸命仕事をしている様子をひしひしと感じました。大きな建物も一人一人の力の積み重ねであることを身を持って知り、感動しました。

■今後のご活躍を期待しております。ありがとうございました。

 座右の銘は「向明背暗」

趣味は「写真」。中学から大学まで写真部に所属していたとし、学生時代には「お年寄りのシワのある顔を陰影のコントラストを考えながら如何に表現するか」を考え、老人ホームを訪れては撮影していたとする。あとはゴルフに読書、それと阪神タイガース。
 神戸で一番好きな場所では旧居留地を上げる。震災時に同地の駐車場が対策副本部となり、寝泊りしたことや「いろんな思い出が詰まっている場所」とする。住み慣れたまちには愛着はあるが、これまでには管理職としてつらい決断を下してきたこともあり、良い思いでばかりではない。時間ができればそれらを振り返りつつ「四国八十八カ所巡りにも出たい」と語る。
座右の銘は、明るく元気に前向きに―との意で「向明背暗」。民間で培ったマネジメント経験を充分に生かした手腕に期待したい。

(構成・編集部)
糟谷明人(かすや・あきと)昭和45年3月関西学院大学商学部卒。同年4月大丸入社、同59年3月神戸店人事部課長、同63年3月同店人事部長、平成9年3月心斎橋店事務統括部長、同11年3月潟激Xトランピーコック代表取締役社長、同21年3月鰍i.フロントフーズ代表取締役社長、同年6月同社顧問、同22年6月鰹チ費科学研究所顧問、同年7月独立行政法人都市再生機構理事・西日本支社長。神戸市在住、63歳。


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