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近畿地方整備局港湾空港部 菊地身智雄部長  【平成24年03月26日掲載】

災害に強い港湾づくりを推進

防災方針6月には取りまとめ

阪神港の機能強化へさらに注力


国土交通省では、防災計画の見直しにより津波対策においては、二つのレベルによる対策の考え方を示している。これに基づき国際コンテナ戦略港湾「阪神港」を有する近畿では、大阪湾岸域が一体となり新たな防災対策を推進するとともに、関係機関による大阪湾BCPの策定をはじめとした取り組みが進められているが、その中心的役割を果たす近畿地方整備局港湾空港部の菊地身智雄部長に、今後の見通しを聞いた。     (渡辺真也)

■東日本大震災により、従来の防災計画の見直しが行われましたが、まず、国交省における地震や津波対策についてお聞かせ下さい。

 中央防災会議での議論を受け、国交省の交通政策審議会港湾分科会に防災部会が設置され、検討が進められてきました。昨年7月には中間とりまとめが行われ、一定の方向性が打ち出されました。この中で津波対策については、発生頻度の高い津波と、数百年から千年に一度程度の頻度で発生する最大クラスの津波の2つのレベルでの対策のあり方が示されました。
 発生頻度の高い津波については、人命と経済活動を守るいわゆる「防災」の観点を基本に、防潮堤等のインフラで後背地を防護します。最大クラスの津波に対しては、全てを構造物で守ることは難しいため、まず人命を守ることとし、経済的な損失は可能な限り軽減する「減災」の考え方としております。減災では、人命を守る上で避難時間を稼ぐために、また経済的損失を少しでも小さくするために津波防波堤
等のハードが果たす役割も大きいものがあります。

■東日本では津波により防波堤等の防護施設が被害を受けておりますが、ある程度は機能していました。

 実際に釜石では、湾口防波堤により津波の到達時間を5〜10分程度遅らせたことで避難時間が確保でき、遡上高でも半分程度に減らすことができました。映像で見れば壊滅的な被害を受けたように思われますが、実際には湾口防波堤による効果でかなり助かった住民の方々がいると報告がありました。このため、減災のためのハード整備もしっかり考えていく必要があります。

■近畿地方整備局としての取り組みは。

 中央防災会議や交通政策審議会港湾分科会におけるこれらの方向性を受け、近畿においては港湾や臨海部の対策を検討していくことが課題となっています。このため、昨年9月に「近畿地方の港湾における地震・津波対策検討会議」を設置し、これまで3回開催しました。大阪府、兵庫県、和歌山県、大阪市、神戸市の各港湾管理者、港湾所在市町村長、臨海部立地企業、関経連等による議論を重ねており、今年の6月には津波対策に関する基本方針を取りまとめ、それを踏まえ25年度の概算要求に反映させたいと考えております。

■防波堤に関してですが、和歌山で新形式の防波堤が採用されています。

 直立浮上式津波防波堤については、今年度、試験工事として発注しています。試験工事は、来年春頃の完成を予定しております。航路部分に構築するため平時は海底下に収納し、津波が発生した時に浮上させるものですが、実スケールでの整備はわが国初となるため、様々な課題について今後検討を進めていく必要があると考えています。また、今後、内閣府において津波想定等が公表されれば、これを踏まえて具体的な津波のシミュレーションを行い、管内の防波堤や防潮堤などの各施設について津波安全性の照査等を実施していくことを考えています。

■ハード整備は勿論のこと、地元市との連携といったソフト面での体制構築も必要です。

 地震・津波防災については、各自治体の皆さんとの連携が不可欠です。津波ハザードマップの作成や避難路の整備や津波避難タワーの建設等、我々もお手伝いできる部分もありますので、自治体の皆さんの声を伺いながらしっかりと連携していきたいと考えています。
 大規模地震及び津波への備えという観点では、如何に港湾機能を継続させるかという課題もあります。この事業継続計画(BCP)ですが、昨年、「大阪湾港湾機能継続計画推進協議会」を立ち上げ、まずは上町断層による直下地震に対するBCPについて協議を進めています。来年度については、内閣府において津波に関する新たな想定等も出てまいりますのでプレート境界型地震や津波に対するBCPの議論を本格化させたいと考えています。

■国際コンテナ戦略港湾である阪神港への取り組みは。

 来年度は阪神港のプロジェクトが本格的に動き出すこともあり、国際コンテナ戦略港湾としての機能強化にますます力を入れてまいります。具体的には、神戸港ポートアイランド2期地区での航路泊地整備と、コンテナ荷捌き用のヤードの液状化対策事業を継続して実施し、大阪港でも同様に航路整備を行います。また、夢洲の高規格コンテナターミナルでは、現在稼動している3つのバースに隣接する新しいバース整備についての事業化検証調査費が認められており、一体運営を前提とした事業の必要性、緊急性等について検討を行っていく予定です。

■堺泉北港等の阪神港以外の港湾との連携は。

 堺泉北港については、臨海工業地帯の核として機能しており、阪神港とは少し性格が異なっております。ですから、欧米との基幹航路等については、基本的には国際コンテナ戦略港湾である阪神港(神戸港と大阪港)で考えていくことになりますが、地域のニーズに対応したターミナル整備や航路整備に関しては着実に実施していきます。また、堺泉北港堺2区において整備中の基幹的広域防災拠点は、この4月1日から暫定供用を開始しますが、来年度以降も緑地整備等の残事業を実施していきたいと考えております。

■建設業界に対してご意見、要望がございましたら。

今回の東日本大震災では、国交省との災害協定に基づき、業界各社が被災地へ駆けつけていただき、港が全く使えない状況の中で、航路啓開をはじめ、 瓦礫の撤去作業等を実施されるなど、港湾機能回復に向け、迅速に対応していただきました。平時はもとより、災害時においても全国的な規模で対応されたことに対して 深く敬意を表します。
 今後も、こういった体制を維持するとともに、まだまだ遅れているインフラ整備においても対応できる備えをお願いしたいと思います。さらに、震災を機に注目を 集めている直立浮上式津波防波堤のような新しい技術や工法の開発にも力を発揮されることを期待しております。我々としても国際競争力の強化や地域の防災機能の向上に 不可欠なインフラ整備をしっかりやっていきたいと思っておりますし、そのために必要な予算の確保に向けて取り組んでまいります。

■ありがとうございました。



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