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JVN JOINT STOCK COMPANY チャン・タン・ビン社長  【平成24年10月15日掲載】


3次元施工図で差別化目指す

ベトナム・JVN社のビン社長

ホーチミン市

日本の技術と技能、伝える場を


 「日本留学・日本研修経験者との連携、日本式の施工を理解した現地技能労働者の育成促進」。今年6月に政府決定されたパッケージ型海外展開促進プログラムには、こんな記述が見られる。具体的には、日本を熟知する現地の人たちと連携し、インフラ売り込みを支援してもらう。また、日本式施工を海外で実現するため、現地技能者を育てデータベース化し人材確保する。この2点。既に後者に関しては、ベトナムを対象に準備委員会を設立。国土交通省では、「日越建設会議」の開催も予定している。

日本企業から受注

 そのベトナム最大の商業都市、ホーチミン市に住むチャン・タン・ビン(TRAN THANH BINH)氏を訪ねて話を聞いた。

 ビン氏は38歳で日本に留学経験がある。現在は「JVN JOINT STOCK COMPANY」(以下JVN社、http://www.jvnjsc.com)という設計事務所を現地で経営する。2年前の11月に起業したばかりだ。 ホーチミン市建築大学を卒業後、タイで修士課程、東京工業大学で博士課程をそれぞれ修了。その後、日本の大手設計事務所で1年半働き、ベトナムに帰国。日本に7年間滞在したことから日本語も堪能である。

 現在、JVN社のメイン業務は施工図の作成。クライアントは全て日本企業で、東京の中小建設会社を中心に20社を超える。日本の施工図会社からアウトソーシングで請ける形で、これまで130件ほどの施工図を手掛けた。物件は5〜6階建ての賃貸マンションが中心。小規模な仕事だが「工事完成まで変更にも応じる」という姿勢で取り組んできた。

 従業員は20人、うち管理者が5人。CADオペレーターは「日系の施工図会社で経験を積んだ社員もいる」など熟練が揃う。もちろん日本語、英語で対応でき、コミュニケーションにおける懸念はない。

 また、JVN社では最近、大手日系メーカーの施工図を受注したという。ホーチミン近郊の工業団地に建設する新工場。日本のゼネコンから直接請けることができた。同社にとっては、初めての大きな仕事でもあり、「この2〜3ヶ月はとても忙しい状態だ」という。

 ただ、仕事の波が大きい上に、ベトナムの現地企業は施工図を使わない。「何故、施工図が必要なのかと聞かれる」。そんなレベル。やはり、日本の顧客開拓が営業面での課題とも言える。

 施工図の仕事は、常にフィリピンや中国勢との熾烈な価格競争にさらされるが、ビン氏は「今、施工図も立体図に変わろうとしている。当社は技術的にも3次元に対応できる。この分野で日本からの受注を増やしたい」。そう言って意欲を示す。続けて、「将来の夢は建築設計事務所として成功すること」。笑顔で語る。

ベトナムの建設業

 ところで、ベトナムの建設業に関してビン氏に尋ねると、「ベトナムで一番の問題は安全。事故は多発しているが、ベトナム人は殆ど気にしない。建設現場の意識を高める必要がある。日系企業の現場で施工管理と安全を学ぶことも必要。日本のレベルにはまだまだ追いつけない」。

 ベトナムの人口は約8,700万人、平均年齢は27歳代と若い。しかしIT産業と比べ、「建設業界には人材が少ない。スキルも低い」。ちなみに、現地建設会社のワーカーの月収は600万〜700万ドン(2万4千円〜2万8千円)程度。高いインフレ率(昨年の消費者物価指数上昇率は18.6%)が賃金を押し上げている部分もある。

 ビン氏は若者の教育環境についてこう話す。

 「実際に仕事を学べる専門学校が欲しい。大学はテキストだけだから。今でもベトナムに専門学校はあるがレベルは低い。現場経験のある先生がいない。日本の建設会社から先生を派遣してもらい、管理技術と技能レベルを上げていかないと」

 一方、日本の建設会社の受注状況は、土木のODA案件、もしくは日系工場の仕事が主流。オフィズビルやマンションといったローカルの民間建築は「韓国企業が強い」ということだ。



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