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座談会 「多能工」の役割をさぐる  【平成25年03月18日掲載】

座談会 「多能工」の役割をさぐる

大阪府建団連
     会長 北浦年一氏
関西分譲住宅仕上業協同組合
     理事長 草刈保廣氏
(一社)日本リノベーション・マネジメント協会
     会長 岡 廣樹氏


北浦会長 草刈理事長 岡会長


 建設投資が冷え込む中で、市場の拡大が期待されているリニューアル分野において、大規模マンションの改修工事に特化し、オープンブック方式による事業展開を図っている関西分譲住宅仕上業協同組合(KSK、草刈保廣理事長)と、一般社団法人日本リノベーション・マネジメント協会(RMJA、岡廣樹会長)では、施工の効率化の観点から「多能工」の育成を視野に入れている。草刈・岡の両氏は、技能工不足が懸念される建設業界にあって「業種の限られる改修工事では、多能工の存在は大きい」と口を揃える。その両氏に、かつて多能工の育成を経験した、大阪府建団連の北浦年一会長を交えて、多能工の役割とそのあり方等について語ってもらった。

 職種間の交流も必要に    北浦氏
 リフォーム工事で強み     岡 氏
 作業単純化の流れの中    草刈氏

■多能工については、専門工事業界でも育成に取り組んだ時期があり、決して新しいテーマでもありません。また、北浦会長もかつては多能工を育てようとしたことがありました。

 北浦

 多能工については、30年程前に学識経験者からその必要性を説かれ、私をはじめ鳶の専門工事業者数社とともに育成に乗り出しました。当時は国や自治体からの奨励、元請の支援もありましたが、上手くいかなかった。コストがかかり過ぎたことで元請が支援を打ち切り、我々もそれぞれの経営が圧迫されてきたことで挫折した。また、私から言えば多能工という名称からしておかしい。例えば3つの職種をこなした場合と、1つの職種の場合とで賃金が同じであれば1つの職種に専念するほうが割がいいわけで、多能工を使えば安く上がると考えられているのではないか。使う方にとっては便利だが、要は利用されていることにもなる。名称を変え、最低賃金を保障した上でないとなり手は出てこないだろう。

 岡

 多能工とは何かと考えた場合、2つの業種以上の仕事をこなす人が定義となっています。例えばKSKでは、塗装やクロス、シールなどの仕上げ業種の集団で構成しており、そこで多能工を常用していれば、人を入れ替わりで入れる必要がなく、順番に仕事をこなすことができます。そういった環境を創る必要があります。特に現在ではリフォームの需要が増えており、リフォーム専門業種が出てきてもおかしくないはずです。

 北浦

 そういった社会情勢、社会が求めるものに応えていくことは必要だろう。塗装工が鳶の仕事をやってもいいし、その反対でもいいと思う。しかし、社会が要求しても専門工事側の体質が依然として変わっていない。本来なら鳶工がコンクリートを打ち、塗装の仕事をやればいい。鳶工はそれが出来ますし、実際、何人かはおりますが、それだけでは生活できない状態です。岡さんのおっしゃることは理解できますし、正しいとは思いますが、現実がついていけてない。それを上手くやるには直用にするしかないだろうが、ただ、九州でそういった動きが出始めてはいる。

 岡

 その九州ですが、2月22日にRMAJの九州支部が福岡市に設立されました。福岡は分譲マンションの人口比率が高く、設立にあたっては建専連九州地区に呼びかけたところ、数社の賛同を得ることができました。

 草刈

 かつて躯体三役は元請社員が兼ねていた時期もあったと聞いております。

 北浦

 そういった時代もありましたが、請負の形態が変わってきたことと、高度成長期に仕事量が飛躍的に増えるとともに管理者も増えていった。その状態が今まで続き、現在では職人の数より管理者の方が多くなってしまった。

 岡

 リニューアル特に住宅のリフォームはクレーム産業です。何故そうなるかといえば、リフォーム工事はお客さんの前で工事を行うからです。お客さんは目の前で工事を見ているからおかしいなと思ったり、変だなと思うと直に指摘してくる。通常の工事では、大工や塗装、クロスと各工程別に職人さんが変わる。それら専任の職人は前工程の職人がどういった作業をしたのかが分からない。そこで不具合が出た場合、客は見ているわけですから注文を付ける、言われた職人は分からないからトラブルになる。それを、最初から最後まで一人の職人がやれば、顧客の信頼は確実に得られます。私自身もかつて在籍していた会社で多能工を採用しようと思ったことがあり募集したんですが、応募者がなかった。会社側との意見の相違もありましたが、募集の動機はアフターサービスの充実にありました。顧客の求めることにはどんなことでも応じられるようにしたかった。また、リフォームには至らないがちょっとした修理や修繕などが出来るようになれば、これこそ多能工の仕事ですが、そういったことができればその企業の強みとなるのではないか。既にハウスメーカーでは実践しており、多能工によるアフターサービスやリフォームの部隊を設置しているメーカーもあります。

■それらの多能工はどこから集めてくるんですか。

 岡

 例えば若い大工さんなどに声をかけ、直用形態としながら教育を施していく、言わばサラリーマン化させるわけです。ただ、屋外工事になると通用しない。鳶の職人さんらは塗料やコンクリートで作業着が汚れることを嫌うわけです。

 草刈

 建築技術が簡易化してきたのはハウスメーカーがプレハブ工法を採用し出してからです。高度な技術を必要とせず、流れ作業的に組立だけですから社員でもできる。ポイントさえ掴めば誰でも多能工になれた。私は塗装業ですが、我々の時代では足場の組立から覚えていきましたが、ハウスメーカーが進出してからは作業が単純化しました。

 岡

 多能工と単能工の違いといえば、例えば宮大工がおりますが、彼らに他の仕事をやってくれとは言えませんし、鳶工でも優秀な職人がおり、その職人に鉄筋を組んでくれとは言えない。そういった一流の技能を持った、その道に専念する人は絶対に必要ですが、職種によっては多能工を育成することも必要だろう。

 北浦

 例えば改修工事での塗装工事等は、殆ど元請抜きで一次業者、親方が直接工事を請負っている状況で多能工も使いやすいはず。ただ、かつての失敗した立場から言えば、各職種の親方が職種間の認識を持つことと、それぞれの職人がお互いの職種を理解するための職種間の交流も必要だ。

 岡

 現在は各職種における仕事が簡略化されてきている。技術を磨かなくても、そこそこの腕があれば出来上がる仕組みになっている。

 草刈

 壁塗りでもローラーを使えば半年くらいで慣れてくる。ただ、その下地を仕上げるのにはやはり、それなりに年数と経験が必要です。

 北浦

 各職種の職人でも、昔のように時間をかけなくても他職種の仕事をそれなりにこなすことが可能となる。現場の芯となる職長クラスの人材が3割程いれば、仕事は進むはずだ。

 人手不足時代を乗り切るにも    岡 氏
 「 誰が育てるか 」がポイント     北浦氏
 オープンブックで賃金も明確     草刈氏
 草刈

 KSKではオープンブックを提唱し、RMJAの岡さんを中心に推進しており、既に東日本でも進めています。ここでKSKとRMJAの設立経緯を述べますと、建築工事の場合、大きく分けて躯体業者と内装業者の2つがあり、20年程前まではゼネコンもこれら業者に発注していました。ところが仕事量が増えるにつれ、業種間の縦割りが始まり業種が増えていった。しかし、仕事が減ってくると職人さんの単価が下がり、離職する人が多くなってしまった。この職人さんが不足する状況の中で、マンション等の大規模修繕を専門とするKSKを私が、岡さんがRMJAを設立しました。

■東京では、塗装関係がいち早く立ち上げたと伺っております。

 草刈

 俗に躯体三業種、仕上げ二業種と言われ、このうち仕上げの二業種は左官と塗装です。建築工事において仕上げ工事は重要視されていますが、工事量全体でみれば塗装は、1%程度にしか過ぎず、元請ゼネコンも知識が少ないため工事は我々にまかせっきりとなる。しかし、我々からすれば1%程度の工事では利益も少なく業者によっては、それこそ職人まかせのところもある。さらに、その1%の塗装業者がマンションの改修工事であれば、元請として100%受注できることから、そのうち下見積も塗装業者が手掛けるようになり、それが1つの施工部隊となっていきました。

 岡

 マンションでの大規模改修の場合、主な仕事は塗装業者と防水業者になりますが、この中で塗装業者が鳶工を使うようになった。かつて鳶といえば現場の主力と考えられていたものが、改修工事では塗装と防水が主になっており、特に塗装業者が鳶工と防水業者を使う業態になってきた。そうなると、1つの工程で職種を分けてやるよりは、一括で―ということになってきた。

 北浦

 しかし、ゼネコンや行政は職種を細分化する方向にある。かつては躯体一式工事での請負もあったが、現在は分離発注となってしまった。その分、業者数が増え、塗装業でも組合や団体が複数ある。多能工に関しても専門工事業者だけでなく、元請と下請が話し合うことが必要だ。

 岡

 ただ、一つの契機としてオープンブックが公共工事に導入されだしたことに注目したい。すでに宮城県や新潟県で採用され、今後も他の自治体に広がっていくことが予想されております。オープンブックでは、地場のゼネコンがCMRとなり、地場の専門工事業者を使うことになります。そうなると全国大手ゼネコンが系列の名義人を使うことができるかどうか難しくなる。また、地場の専門工事業者を使うとなると、今度はその業者にそれだけの技能工が確保できるかどうかが問題になってくる。現在のように若い人が入ってこず、人手不足の状況では、1人で2〜3種の工種がこなせる技能工が必要となってくると思います。これは時代の流れです。さらに社会保険未加入問題にしても、オープンブックの中で保険加入業者を使っていけば業者数も減少するはずです。複数の業種をこなせれば仕事が増え、現場に出る日数も増えるわけで、賃金にも跳ね返ってくる。北浦会長がかつて試みた多能工育成の時代とは状況が全く違ってきて、多能工が必要な時代になってきたのでは。

 北浦

 先に述べたとおり、多能工の必要性は昔から言われており、過去には資金を入れて育成にも取り組んだが、ことごとく失敗した。「多能工は必要だ」と言うのは簡単で、実際に多くの人がそう思っている。それでは一体誰が責任を持って育てるのか。そこが重要なポイントだ。また、建設業に若者が来ないと言われているが、鳶の場合、実態はそうでもない。若い子は入ってくるが続かないだけ。実際、地方では10代や20代の子を抱えて仕事をしている専門業者も多くいる。中にはやんちゃな子もいるが、それを躾、教育することも親方の仕事のうちで、大阪はそのあたりが出来ていない。要は、いかに続けさすかだ。

 草刈

 私も親の代から塗装業だったので、子供時分から若い職人さん達と同居していましたが、その時分もやんちゃな人が多かった。ところが今は若い人が入ってこない。ただ、改修工事では昔は刷毛を使っていましたが、今はローラーを使っており、新人の若い子でも2カ月もあれば仕事をこなせるようになってきてます。ただ、職人になる子の殆どは勉強がいやで入ってきた。そこで10年、20年と経験を積んで一人前になっていたが、今の時代はそういったことも嫌がり、また、やんちゃな子を育てあげるには相当な労力が必要となることから、育てる人も少なくなってきた。

 北浦

 多能工を育てるのなら鳶が一番良いのではないか。鳶には比較的若い子も多く、運動神経もある。やんちゃも多いが仕事を覚えると真面目にやり、親方に対する義理も感じて長続きする子が多い。ただ、待遇が悪いことが問題だ。多能工を育成するにしても、その処遇をきっちりとしないと人が続かない。オープンブックになればその点はクリアできるかもしれないが、他職種との連携には抵抗もあり困難も多いが、一番の課題は彼らの意識を変えることができるかどうかだ。

 岡

 大規模修繕を市場として見れば1兆円程度で、超大手数社でまかなえる。ただ、改修やリフォームを含めれば13兆円規模になる。現実問題として、リフォームの世界では結構、多能工が活躍している。

 草刈

 KSKでは現在七九社が加盟しておりますが、最低でも200社程度まで増やし、仕上業協会としたい。このため、今年は各業種を対象とした研修会やオープンブックの勉強会を順次、開催していきます。目標は、そこで多能工として働いた場合の賃金を2万円とし、年間250日働いて年収500万円にはしたい。オープンブックでは、職人の賃金まで明確に開示します。

 岡

 現在の重層構造の中では、本来、職人に渡る2万円が1万円や8千円になっている。オープンブックの狙いは重層構造による「中抜き」を排除するところにもある。2万円なら社会保険等にも入ることができます。リフォームの分野ではそれが実現しやすことからRMJAやKSKで実践しておりますが、実際には専門工事業者の賛同が絶対に必要で、ゼネコンも改修工事でのオープンブックには理解を示しております。

 草刈

 国交省でもオープンブックの有効性は以前から認めており、国際的な時流でもあるとしている。実際に東日本大震災の復旧工事で採用し出した。特に改修工事は業種が限られていることから仕切りやすく、かつ需要が増えてきたことからニーズに合致しだした部分もあります。

 岡

 業態に絞って多能工の訓練校をつくり、そこで訓練を受けた人をKSKが社員として雇用すればいいのではないか。そうなると重層構造の解消にもなるだろう。勿論、資金面から人材確保、維持管理までクリアするべきことは多いが、目標を掲げてやっていきたい。



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