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大阪府建団連  阿食更一郎相談役  【平成25年04月04日掲載】

やり方を変え、意欲ある人材呼び込め

個人の能力、存分に発揮できる場を


 職人不足が懸念される中、処遇改善に向け、社会保険加入の動きが本格化している。「若者の入職を進めるため、保険が必要」。その考えには異論を挟めない。しかし一方で、「安定を求めれば、職人というものは育たない」との見方も出ている。では、本物の職人を育成するにはどのような環境が必要なのか。大阪府建団連の阿食更一郎相談役に聞いた。

(中山貴雄)

■最近の職人は技量が落ちている。阿食さんはそこに強い危機感を抱いています。

 「職人の腕を上げるという点では、旧来の徒弟制度の方が良かったと思う。見習期間中は小遣い程度しか貰えないが、若い人は必死で修行に励み、将来は、身に付けた技能で大いに稼ぐことができた。しかし今では、法律の縛りが厳しくなったこともあり、このような徒弟制度は崩壊した。と同時に、技量が認められない時代にもなった。ここに大きな問題がある。昔は腕が良かったら日当も多く、現場によっては他人の倍くらい稼げた。プロ野球と一緒。これが本当の職人の世界だ。だが最近は、腕が良くても悪くても賃金には大差ない。1割か、せいぜい2割程度ではないか。その意味で、職人の世界もサラリーマン化した。本来なら、誰よりも速く仕事を進め、品質も素晴らしいとなれば、倍の賃金を払う値打ちはある。これが腕の評価というもの。けれども、社会全体もそうだが、ゼネコンの中でも技量を評価できる人がいなくなった。それに伴い、良いものができなくなった」

■評価されない上に、身分も不安定。それならレベルは落ちる。当然かもしれません。

 「現場に飛び抜けた職人がいれば、集団を引っ張り全体のレベルも上がっていく。だが、いくら頑張っても賃金は同じ、つまり頭打ちとなれば能力は伸びない。むしろ生産性は落ちる。そういうものだ。かつては、人ができないような仕事をすれば、その分評価してもらえた。元請も『普通は500円だが、あの職人なら1000円払っても惜しくない』といった具合に。一方、腕の落ちる職人もそれを見て、寝る時間を削ってでも腕を磨く。そんな好循環を生んでいた。そもそも職人というのは腕を売る商売。腕を上げ、事業主になり、人の倍稼ぎ、金を蓄え、老後の生活を送る。つまり、全て自己責任だった。それが今や、保険加入に終身雇用。『みんな平等、みんな安定』という風潮になった。確かに、平等で安定した職場を望む技能労働者もたくさんいるだろう。だが、身分保障だけでは、『腕を競ってやっていく』という意欲は失せる。やはり職人には、安定だけでなく、プロ野球や大相撲のような実力社会も必要だ。そうしなければ、やる気のある人材は入って来ない。結果的には技能も廃れていく」

 「ところで、今から十数年も前に、日左連(日本左官業組合連合会)で二つの生涯モデルプランをつくったことがある。一つは事業主を目指す独立コース。もう一つはコツコツやって会社の管理職になるコースだ。しかし、独立を選択する人が少ないため、最終的には上手くいかなかった。既にこの頃から『俺の腕を買ってくれ』と。そんな気迫のある人材が少なくなっていた。職人の世界では『他人に使われるのが嫌だ』という人間も多くいたが、すっかり安定志向に偏っている。ただ一方で、何らかの事情があって会社の番頭から独立して成功を収めるケースもある。こういう人は、技量はさておき、根性はあると思う」

■設計的にも職人がいらなくなってきた。ますます減少に歯止めがかからない。

 「現在の建物は経済効率が最優先。極力、職人が手間をかけないように設計されている。むろん工期短縮のためだ。かつては一般的な建築現場なら、左官の30人〜40人は入っていた。ところが今は、2人か3人。10分の1の人数で足りる。最新の工法では、難しいものは工場でつくるから。例えば、現場で職人が漆喰でつくっていたものを、成型品にペンキを塗って代用する。漆喰だと1年や2年かかるが、これだとすぐにできる。また、『それで良し』とする社会にもなった。確かに職人は不要になるだろう。しかし、これでは誰にも感動を与えられない」

 「腕1本でのし上がる職人は、想像を絶する努力、工夫をしながら実力を積み上げる。そこをスポーツ選手と同様、一般社会に認めてもらうことが大事。あの職人集団は素晴らしい左官の仕事をすると。今でも岐阜の『挟土修平』(職人社秀平組)や淡路島の『久住有生』(左官株式会社)のような目指すべき左官職人のモデルは存在する。彼らは弟子を抱えながら、良い仕事をして、それが評価され、さらに良い仕事を請ける。海外からも引き合いがあるなど、凄いバイタリティだ。そして、これが本当の建築職人の姿だと思う。施主が彼らに塗ってもらうことを待ち望んでもいる。左官の一次業者にも、彼らのような傑出した職人を育て上げる仕組みづくりが必要ではないか」

  出来高制導入も

■若くてやる気のある人材を採用し、その中から職人のスーパースターも育てていこうと。理想的にはその通りですが、現実的には無理な話では・・・。

 「そんなことはない。やればできる筈だ。実際、若い人の多くは入職するまでは意欲に満ちている。ところが、現実を目の当たりにすると、落胆して辞めていく。だからこそ、今の賃金体系を見直し、出来高制の導入も考えないと。さらには、見込みのある若い職人には大胆に権限委譲した上で、予算も多く持たせるとか。一定のルールを守らせながら、個人の能力を存分に発揮できる環境をつくることだ。あわせて、元請にも事業主にも聞く耳を持つことが求められる。職人の方も、自分の裁量や頑張り次第で多く稼げるとなれば、必死になって働くし、腕も上がっていく」

 「『俺も将来、一角の事業主なってやる』と。そんな意欲に溢れた人材が10人のうち1人でもいれば、現場は間違いなく活性化する。大体、こんな子は学校の番長みたいな存在で、勉強は苦手かも知れないが、力はある。このようなタイプの方が職人の世界では使いものになる。もとより、そんなに悪い子たちでもない。そう考えると、世間にはいくらでも人材はいる。ただ、建設業界に引っ張ってくる方策がないだけだ。親の言うことを聞かないやんちゃくれでも、仕事が好きになって更正する子たちも多い。そうなれば親も喜び、社会のためにもなる。やり方を変えれば、まだまだ優れた人材を集められる。そこが業界復活の基本でもある」



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