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近畿建設躯体工業協同組合 山岡丈人副理事長  【平成25年11月25日掲載】

専門工事業の現状と課題【1】

鳶の職人不足も顕著に

悪循環招く短工期競争

 技能労働者をはじめとする人材確保のため、設計労務単価の引き上げや社会保険等の加入促進等の処遇改善に向けた取り組みが進められる中、専門工事業界では、現状をどう捉えているのか。近畿建設躯体工業協同組合で建築部会の部会長を務める山岡丈人副理事長(山岡建設社長)に、鳶工事を取り巻く状況と課題について聞いた。

■大型補正による公共工事の増加、経済対策により建設需要の増大が見込まれておりますが、その実感は。

 大阪に限っては殆ど感じません。昨年まではグラントフロント大阪など、大きなプロジェクトがありましたが、現在はこれといった工事は出ていません。うめきたが終わりハルカスも終わりで、中小の工事でも数が出ているわけでもない。工事量増大どころか逆に疲弊してきている。ただ、工事量が減少しているかと言えばそうではなく、横ばいの状態です。一時に比べれば大きくはないが安定してきてはいます。

■設計労務単価の引き上げの実感は。

 私のところは民間工事が主体のため、直接には影響しませんが、単価自体は変わっておりませんね。大工や鉄筋工では単価が上昇しつつあると聞いておりますが、それも職人不足からきているものでしょう。大工や鉄筋工については、ゼネコン側もここ数年前から不足してきているとの認識はあるようですが、鳶工も昨年から足らなくなってきておりましたが、今年になってそれが一層顕著になりました。しかしその認識がゼネコン側にはまだなく、現場に行って状況を伝えても、まだ理解してもらえない部分が多い。実際、電話一本で手配できたものが、今では何カ所に電話してもなかなか手配がつかなくなってきています。

■明らかに職人不足になっている。

 これまでは二次業者も含めて自社で職人はまかなってこれたが、今はそれが出来なくなってきた。職人の絶対数が不足している上に関東に流出していることで、さらに不足に拍車がかかっている。東日本大震災以後、関東に流れていた職人が、東京オリンピックンの開催が決定したことによりさらに加速するんじゃないかと危惧はしています。すでに東京では単価交渉が始まっていると聞いています。それに比べ大阪、関西には目玉となるプロジェクトがないことから高齢者は辞めていき、若い職人は単価の高い方へ移っていくことになり、ますます職人不足に陥る可能性はある。ただ、それにより従来のゼネコン協力会の垣根がなくなりつつある状況になってきました。他社の協力会社も別会社の工事を受けるようになってきました。

■社会保険未加入対策についての取り組みでは。

 設計労務単価には法定福利費が含まれておりますが、その辺りをもう少し強調する必要はあると思います。行政側は単価設定と標準見積書の作成指導だけで、あとは業界で対応をーでは進まない。ある程度、強制力を持って取り組んでもらいたい。特に公共工事はまだしも、民間工事ではなおさらです。また、職人不足による単価上昇と設計労務単価引き上げによるアップは分けて考える必要があります。一時的な人材確保のためと処遇改善のためとは別物であり、混同されると本来の目的がうやむやになる恐れがありますから。

■標準見積書の活用に関しては。

 先日、組合として説明会を開催して活用を始めたところです。当面は、各社が取引のある元請に対して提出していくことになりますが、直ぐには適用できないにしても、アピールしてく必要はあります。実際の社会保険加入については、二次業者では一度に加入することは難しいところもある。先日も二次業者が許可申請にいったところ保険に加入していないと申請できないと言われ、とりあえずは少人数で加入するということで一応は了解してもらえたことから、当面はそういった形で加入し、原資ができた時点で全員が加入するといったような方法になるかと思います。

■他に課題は。

 職人不足と社会保険加入は鳶職に限りませんが、鳶職で言えば低価格と短工期です。元請サイドの話しになってきますが、価格競争は行き着くところまでいった感があり、今は工期の競い合いで工期がどんどんと短くなってきている。工期が短いと工程の一部でつまずいた場合、それを取り戻すための職人がおらず、悪循環に陥ってしまう。またそれにより安全と品質に影響が出始めている。本来なら余裕を見るべき工程を切り詰めているため事故も増え、品質もこれまでなら考えらないような問題が起こってきている。

■まさしく負のスパイラルですね。

 しかし、それらの問題をふくめても一番の問題は職人不足です。低価格や社会保険も職人あってのもので、職人がいなくなれば、あらゆる建設生産システムそのものが動かなくなる。それを解決するには賃金を上げるしかしない。単価が上がり、賃金が上がれば保険にも加入できる。若い人たちの入職を促進するための取り組みは勿論必要ですが、これ以上離職者が出ないよう、今いる職人を引き留めるため現状を維持することも重要です。

(文責・渡辺真也)
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 公共工事設計労務単価の引き上げや社会保険未加入対策としての標準見積書の活用など、国をはじめ元請・下請等が一体となって、技能労働者の処遇改善に向けた取り組みがはじまっているが、専門工事業各団体は、これらの取り組みについてどのように対処し、またどう感じているのか。弊紙では、大阪における鳶・鉄筋・型枠大工・左官の各職種の代表者4人にインタビューを行い、各職種の現況を「専門工事業の現状と課題」として4回にわたって紹介する。

 


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