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関西鉄筋工業協同組合 岩田正吾理事長  【平成25年12月02日掲載】

職人不足からくる忙しさ

人材確保 海外実習生の導入も


 設計労務単価の引き上げや社会保険未加入対策など、技能労働者の処遇改善に向けた取り組みが進められる中、技能労働者の不足が最も顕著とされる鉄筋工事業では、これら動きをどう見ているのか。全国鉄筋工事業協会の副会長でもある関西鉄筋工業協同組合の岩田正吾理事長(正栄工業社長)に、大阪の動向を聞いてみた。

 (聞き手・渡辺真也)

■経済政策と大型補正予算で工事量増大すると言われておりますが、現在その実感はありますか。

 多少はあると思いますが、鉄筋工事では棒鋼トン数で見た場合、突出して増えてきたかというとそうでもない。例年とそんなに変わらない。なのに忙しく感じるのは職人の手が足りないからで、決して工事量が増えたからではなく、人手不足からくる忙しさだということを理解してもらいたい。

■労務不足に関しては関西、特に大阪が一番不足しているといわれておりますが。

 職人不足は大阪に限らず、全国的な傾向です。大阪や東京ではこれまで、冬場には北海道や東北地方から職人を呼んでいましたが、今ではそれらの地域でも職人離れが進んでいるため、職人が不足しており、年間を通して忙しくなっている。そのためこちらに来る職人がおらず、さらに忙しい状況になっている。全国的にこれまでと変わらず職人離れが止まらない状況が続いているのが現状だ。

■全国的に慢性的な職人不足となっている。

 こういった状況に関わらずゼネコン自体がこの状況を十分に理解しておらず、危機感を持っているところが少ない。作業工程にしても、以前と変わらない工程を立ててくる。夏場には生産性が低下するという観点もなければ、冬場は人が集まらない現状が理解されていない。工期に間に合わせるためには無理をしなければならず、その分だけ職人は忙しくなる。そういった意味での工事量増大は実感しているが、このあたりの事情を元請にも理解してもらう必要がある。それでなければ次のステップに進むことができない。

■4月には、設計労務単価の引き上げがありましたが、その影響は。

 単価自体は、徐々に戻りつつありますが、これは労務単価の引き上げより、人手不足によるものと考えられます。単価を上げないと人が集まらない状況になっているからです。設計労務単価については、中央レベルはともかく、地方の各組合にとっては、引き上げられた内訳があまり理解されていない。そういった点から見れば、労務単価が引き上げられたという実感はない。

■なるほど。

 ただ、国が先頭を切って動き出してくれたことにより、我々としても単価アップを元請に対してお願いしやすくなり、理解もしてもらいやすくなった。一般社会から見れば、税金を使って保険に加入させるといったように見られますが、現場にいる末端の作業員まで全てが保険に加入すれば、それ自体が大きな税収になります。おそらく国としてもその辺を注視しており、整備局から我々のところにも「単価は上がっているのか」と聞いてこられます。

■標準見積書の一斉活用も始まりましたが。

 先日来、組合役員で元請け大手五社に標準見積書の活用にあたってお願いに回ってきました。内容は見積書の内容精査に関するものです。組合員が活用しやすいように、組合が率先してやることで、見積書活用が始まってきたとする空気感のようなものを作りたかったからです。その中では鉄筋だけでなく、他の業種も足並みを揃えてほしいといった意見もありましたが、最終的には各社ともご理解いただき、元請、下請が一緒になり発注者に働きかけていくという合意を見ることができました。業界が一体となって取り組むという空気感を出したいと言うことです。そのため大手から社会保険加入を始め、中小にも波及させたい。もちろん、組合としても組合員に対して、個々の考え、事情もありますが、加入に向け法定福利費の適正な支払を受けるようには指導してきます。保険加入に関しては、やはり我々専門工事側の取り組み如何にかかっているとは思います。

■人材確保に関して組合としての取り組みは。

 国内の人手不足がいよいよ顕著になった場合、辞めた職人を呼び戻すか、海外から導入するか、2つの考えがあります。辞めた職人を呼び戻すにはそれなりの賃金を支払うことです。それも東京等に引っ張られないだけの賃金が必要で、既に、外部から職人を呼ぶ場合の単価は割高になっている。ならば、こちらの職人の単価も上げていかないといけない。一時的に職人を確保するためのものではなく、社会保険加入も含めた単価アップを要請する。ただし、その場合は、我々の側としては支払の流れを元請に対して明確にすることが絶対に必要となってきます。

■海外からの調達はどのように。

 海外からの調達では、単なる労働力としてではなく、戦力として考える必要があります。これについては、全鉄筋が20年以上実施している実習事業で受け入れている中国の技能者をはじめ、その集団公司がアフリカで受注した工事で採用しているベトナム人やタイ人等の鉄筋工を呼び込むことも考えられており、実際にその方向で検討もされています。
 ただその場合、受入人数が法律で定められているため人数的には期待できず、不足分を補うことが難しいことから、人数枠の拡大や3年間とされている滞在期限の延長、一度帰国した人たちを高度実習生として再入国を認めてもらう制度の確立等を現在、関係省庁にお願いしております。

■高校生等を対象とした出前講座もあります。

 出前講座は鉄筋という職種を理解してもらうことを主眼に実施しておりますが、最近では講座を実施した各学校の生徒が組合企業に入社するケースが出てきました。そういった部分で学校とのパイプが構築できれば、それも一つの成果であると思います。いずれにしろ、新たな人材を確保するとともに現在いる職人を守っていくことも重要で、これは鉄筋という職種だけでなく、建設業界全体で取り組んでいかなければならないでしょう。



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