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近畿地方整備局港湾空港部 成瀬英治部長  【平成26年03月31日掲載】

阪神港 集貨・創貨・競争力強化の3本柱で

補正予算の早期執行に建設業界の協力を


 国際インフラである港湾は、物流拠点としての役割はもとより、大規模災害時においても緊急物資の輸送路として重要な機能を果たしている。国際戦略コンテナ港湾である阪神港をはじめ、多様な港湾施設が立地する近畿圏において、港湾空港行政をリードする国土交通省近畿地方整備局港湾空港部では、海域や気象が異なる管内において、それぞれの特性を活かした港湾整備や海岸事業に努めている。その事業執行にあたり指揮を執る成瀬英治部長に、今後の事業展開について聞いた。

 (渡辺真也)

■防災・減災対策に関して現在、近畿整備局をはじめ関係機関による南海トラフ巨大地震対策近畿地方地域対策計画の取りまとめが行われておりますが、まずは、港湾での災害対策への取り組みからお聞かせ下さい。

 近畿地方地域対策計画では、深刻な5つの事態を想定し、その応急活動計画と戦略的に推進する対策を策定しました。港湾では、この計画に先駆けて大阪湾におけるBCP(事業継続計画)とその具体的な活動方針に関する取りまとめも行いました。この中では、海溝型地震の南海トラフ巨大地震、直下型地震として上町断層帯地震、六甲・淡路島断層帯地震についてのBCP(案)と活動指針(案)を定め、今後は、これらをブラッシュアップしていくこととなりました。

■BCPに関しては、整備局の災害時建設事業継続力認定制度で、多くの建設企業が認定されております。

 また、港湾での災害対応で東日本大震災では、がれきにより港が閉塞され船舶航行の障害となったことがありましたが、昨年に港湾法が改正されたことにより緊急確保航路の設定が可能となりました。このため大阪湾では、明石海峡大橋から堺泉北港の基幹的広域防災拠点までと紀淡海峡から防災拠点まで、片側で幅700メートル、往復で幅1400メートルの航路が位置付けられ、これら航路においては災害時に、海面の漂流物や沈降物に関して所有者の許可を得ずに処分することが可能となりました。これにより航路啓開にあたっての法的根拠ができたわけで、今後はそれに応じた活動体制の整備や関係機関との連携を図ってまいります。

■ハード対策だけでなく法的な整備も進んできた。

 さらに法的なもので言えば、来年度は航路に面した護岸を所有する民間事業者に対して護岸改良への無利子貸付も新規に予定されています。これは主にコンビナート港湾に対する支援で、資源エネルギー庁の施設の耐震化施策とセットで手当をするものです。物流関係では、ハード面で大阪港夢洲での耐震岸壁の整備、神戸港での岸壁耐震化等のほか、大阪、神戸両港での航路拡幅と増深にも引き続き取り組んでまいります。

■国際コンテナ戦略港湾である阪神港の取り組みは。

 戦略港湾への取り組みは港湾政策における最重要課題でもあります。国際コンテナ戦略港湾政策の深化と加速として、集貨、創貨、競争力強化の3つのキーワードを掲げて取り組みを進めております。集貨では、国際フィーダー機能の充実として、中国と四国、九州の各港湾管理者に対して釜山へのインセンティブをなくすように、それぞれの整備局とともに要請を行っており、また大阪、神戸の埠頭会社に対しても、経営統合後は創設された競争力強化支援事業を活用した事業展開を働きかけてまいります。このため、早期の経営統合が望まれることになりますが、先日の市会で神戸市長が、当初平成27年度としていた経営統合を26年度に前倒しすることを表明され、先頃開催された国際物流戦略チームの会議で、大阪市からも前倒しするとの意向が示されました。

■早期実現への見通しが出てきた。

 創貨については、岸壁背後地で民間事業者が倉庫等の上屋を整備する場合、無利子貸付を行える制度を改正港湾法に盛り込んでおり、成立すれば国と港湾管理者がそれぞれ調達資金の3割を支援することが可能となります。また大阪市では、大阪港夢洲の先行開発地区での分譲に際し、大阪市が5年間の地方税免除、次の5年間を1/2縮減するとした措置を既に実施して分譲を行っていることから、我々としてもそうした創貨への取り組みに期待を寄せているところです。

■なるほど。

 競争力強化では、ハードとソフトの2つの取り組みがあります。ハードでは、先程も触れましたが、大阪、神戸両港での岸壁整備や航路拡幅等の取り組みについては予算も重点配分されていることから、一刻でも早く完成させたいと考えております。ソフト面では、民の視点を利用した効率的な港湾運営として、これも先程申しました大阪、神戸の両埠頭会社の経営統合の早期実現に向け、神戸市と大阪市とともに取り組んでまいります。また、大阪では府市港湾統合の検討が進められておりますが、これが将来的には大阪湾諸港の統合につながれば、新たな港湾運営の展望が拓ける可能性もあります。

■来年度事業については。

 直轄事業では、和歌山下津港における防波堤の整備、日高港の浚渫事業も実施していきます。舞I港では前島地区での浚渫、和田地区での岸壁延長工事を予定しております。舞I港に関しては、「海の京都」として京都府や舞鶴市がクルーズ船の誘致に力を注いでおり、一昨年は3隻、昨年は7隻、今年は13隻の寄港が予定され、昨年舞鶴港はクルーズオブザイヤーの特別賞を受賞しております。さらに、来年3月には京都縦貫道路の開通が予定され、京都市内からのアクセスが向上して地域の振興や活性化が期待できることから、我々としてもクルーズ振興に最大限協力してまいります。日本海側ではこのほか、柴山港で二重円筒ケーソンによる防波堤整備を実施しており、来年度は8函目の据え付けと9函目の製作を継続してまいりますが、これについては来年度に事業再評価を受けることになっております。

■最後に建設業界に対する意見や要望がございましたら。

 先頃、25年度の補正予算が成立いたしましたが、これによる事業執行については、6月末までにその7割を、9月末までには9割を執行するという目標が出されており、我々としても円滑な執行を目指しており、ぜひとも建設業界の方々には協力をお願いしたいと思っております。現在、業界では技術者等の人手不足が指摘されておりますが、港湾工事においても特に作業船の不足が懸念されております。このため、入札での総合評価方式においても自社で作業船を保有する場合は加点対象とするなど、入札契約制度の改善にも取り組んでおり、我々と建設業界がウィンウインの立場で協力しあえればと思っております。

■今後も事業推進にご尽力下さい。ありがとうございました。

 成瀬英治(なるせ・えいじ) 
昭和63年3月京都大学大学院工学研究科土木工学専攻修了、同年4月運輸省採用、平成8年10月運輸政策局総合計画課専門官、同10年2月在ブラジル日本国大使館二等書記官、同年4月一等書記官、同13年4月近畿地方整備局港湾空港部計画課長、同14年4月同地域港湾空港調整官、同15年7月鉄道局施設課長補佐、同16年10月(財)沿岸技術研究センター研究主幹、同18年5月沖縄総合事務局開発建設部港湾空港指導官、同20年7月東京都参事、同22年9月港湾局国際・環境課港湾環境政策室長(併任港湾局国際・環境課海洋環境対策官)、同23年4月港湾局港湾経済課港湾物流戦略室長を経て、25年1月より現職に。香川県出身。51歳。


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