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大阪府建設業厚生年金基金 藤河茂裕常務理事  【平成26年04月14日掲載】

解散に向けての経緯

法改正で存続厳しく

早期の同意書回収を目指す


 厚生年金保険法の改正により、全国の厚生年金基金が解散に追い込まれる中、大阪府建設業厚生年金基金(榎並靖博理事長)でも解散に向けた手続きに入っている。改正法による存続要件が厳しいものとなっていることから、代議員会で解散方針が決議されたもので、同基金では現在、藤河茂裕常務理事を中心に、事業主・加入員等の理解を求めるための説明会等に追われている。その藤河常務理事に、解散までの経緯や今後について聞いた。

(聞き手・中山貴雄)
 

 平成25年6月に改正された厚生年金保険法は、厚生年金基金制度の見直しを柱としたもの。基金の多くは代行割れが多いことから、「厚生年金本体の財政に影響を与えかねない」として、存続要件を満たさない場合は5年以内に解散することとされている。

 法案について藤河常務理事は、「3、4年前から検討されていた」とする。サブプライムローン問題・リーマンショックにより景気が低迷し、代行割れする基金が増加したことに加え、さらに平成24年に多数の基金で運用を担当していたAIJ投資顧問等による資産不正事件や職員による使い込み等の事件が発覚したことが改正法の成立に拍車をかけたと見る。

 大阪府建設業厚生年金基金の場合、「それらの事件とは一切関わりはない」(藤河常務理事)が、国としては廃止の方向で固まっており、いきなりの廃止ではごく一部の健全な基金からの訴訟リスクもあることから、存続か廃止かの規準を示し、5年以内の猶予を設けたものとしながら、存続するためには代行部分(最低責任準備金)の1.5倍の純資産を常時積立てる必要があるなど厳しい要件となっている。

 改正法が求める存続規準では、代行割れでない基金は「存続」「代行返上」「解散」のいずれかを選択し、代行割れ基金は「解散」となる。また、存続要件を満たした基金も5年後以降については同様の選択を迫られ、要件を満たすことができなくなった場合は「代行返上」か「解散」とされており、藤河常務理事は「法案そのものが厚生年金基金制度の廃止を目的としている」と断言する。

 藤河常務理事は、基金を存続するためには現在の最低責任準備金の約1.5倍の資産を保有する必要があるが、「これをクリアするためには事業主負担が膨大なものになる」とする。同基金が存続するためには、今後5年間、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用を毎年1%上回ったと仮定しても、仮に平均給与月額30万円の従業員1人対して、厚生年金の掛金への月額加算負担が7800円から、3万6300円と約4.6倍に跳ね上がる計算となる。

 このため、「この金額を事業主に負担いただくことは到底無理であると考えており、代議員会においても全員一致で同意見であった」とし、また代行返上を選択し、DB(確定給付企業年金)やDC(確定拠出企業年金)に移行する場合でも、代行返上後の資産が不足し、移行するにあたって多くの掛金を徴収することになり「断念せざるを得ない」との考えに至ったもの。

 これら経緯を踏まえ同基金では「基金の継続は困難」とし、2月24日に開催された代議員会において解散方針を決議し、その旨を事業主に通知を行うとともに、事業主を対象とした説明会を開催し理解を求めた。ただ、法案成立までの間、同基金では全国総合厚生年金基金協議会の役員として藤河常務理事らが与野党問わず陳情・要望活動を行ってきたが、「解散ありきの国の流れ」は変わらず、苦渋の決断であったとした。

 解散の条件では、加入者の同意と年金記録の整備が必要で、それらが揃った時点で解散認可が降りるが、その時点までの掛金支払と年金給付は継続となる。なお、同意は事業主及び加入員の3分の2以上が必要とされている。

 厚生年金基金の掛金のうち従業員負担分は基金加入により厚生年金保険料が免除されている部分であり、解散後も将来的な受給者は、通常の厚生年金の受給と変わらず、従業員の掛金負担に対する不利益は無いと理解を求め、その旨の周知徹底を必要とするが、同意が遅れる場合、解散認可も遅れ、その分事業主の掛金負担が膨らむことから、できるだけ早期の同意書の回収を目指している。

 また、建設業の基金は46都道府県にあったが、リーマン以前に15基金が解散、現在31基金となっており、近畿では、和歌山県、滋賀県は既にリーマン以前に解散、京都府と奈良県が解散認可を受け、大阪府と兵庫県が解散決議を行っている。大阪府建設業厚生年金基金は、昭和62年に設立され当時は約6500人でスタート。全盛時には1万3000人以上を数えた。母体は大阪府中小建設業協会で、府県の建設業協会を母体とする他府県の基金に比べ事業所の規模は小さい。

 受給者の受給権を守れなくなった現在、藤河常務理事は、「当基金では特に中小零細企業が多いだけに、事業主の負担を少しでも少なくしたいと考えているが、解散申請が延びれば延びるほど負担をかけることになる」とし、制度上では、今年度から掛金を増額しなければならないが、解散方針を示したことから掛金増額を抑えている状況で「事業主及び加入員の方々に1日でも早くご理解を頂きたい」としている。

(文・渡辺真也)



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