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一般社団法人 日本基礎建設協会 平見殖副会長  【平成26年05月12日掲載】

「基礎施工士」資格創設に取り組む

高度な技術力と深い知識を持つプロ集団へ


 技能労働者をはじめとする人材不足は、工種を問わず発注者・受注者での大きな課題となっている。杭工事等の基礎工事業界においても同様の課題を抱えているが、場所打杭等の基礎工事の専門業者団体である一般社団法人日本基礎建設協会(日基協)の平見殖(しげる)副会長(丸五基礎椛纒\取締役社長)は「どのような条件下でも、工期を守りユーザーの期待に応えることが建設業の使命」とし、現在では、より広範な専門技術者育成に向け、新たな「基礎施工士」資格の創設に取り組んでいる。「高度な技術力と深い知識を持ったプロフェッショナル集団」を目指す平見副会長に、基礎工事業界の現状や課題について聞いた。

 (渡辺真也)
 

■はじめに基礎工事業界の現状からお聞かせ下さい。

 安倍政権となってから数年前に比べて公共投資をはじめ工事量が極端に増加しました。その結果、職人さんや機械類が不足してきた。このうち職人さんの不足は、高齢化が進む中ではやむを得ない部分もありますが、要因の一つにはダンピング競争により技能労働者に適正な賃金を支払えなかったこと、また3Kといわれる労働環境にあっては、特に若者は敬遠して当然だと思います。この状況の中で、国では国土強靱化等の施策を打ち出しておりますが、それを実行するのは建設業であり現場で働く技能労働者です。それが完全に不足してしまっている。これに対して国では、規制緩和により外国人労働者の受け入れを拡大する施策を導入されましたが、その場合、言葉の問題などコミュニケーションに課題が出てくる。特に重機等を扱う場合、コミュニケーションが上手く行かなければ重大事故が発生する恐れも十分に考えられ、我々としても危惧する部分があります。言葉にしても技能習得にもある程度の時間はかかりますから。

■しかしオリンピック関連工事など、当面は需要が逼迫しておりますがその辺りの見通しは。

 当然、期待はありますが、それ以前の課題としてやはり機械と職人の確保です。我々の仕事は、工事のトップバッターです。この最初の工事で出遅れるとその後に続く全ての工程に影響が出るわけで、機械や人手が足らないからといって工期を延ばす訳にはいかない。特にオリンピックは国の威信がかかっており工期、工程の遅れは許されず、元請を含めそれぞれが互いに協調し、融通し合わなければなりません。しかし、どのような状況であれ、建設業の使命としては与えられた工期を守り、自己研鑽によりユーザーの期待にきっちりと応えることにあります。

■機械類が不足している要因は。

 長年にわたる建設投資の縮小により、各企業では機械を手放し、買い替えを手控えていたことによる老朽化した機械の廃棄、あるいは廃業等により、機械が売れなくなったことから、機械メーカーそのものが基礎機械の生産から撤退、もしくは生産を縮小してしまった。そこへきて工事量が増えたからといって生産が間に合うわけもなく、現在は注文してから早くても1年待ちの状況です。また、海外から輸入するにしても、国内の騒音や振動規準に合わないものが多く、そのまま導入するわけにはいかなくなっている。いずれにしろ人手と同様に機械不足の解消も急務なものとなっております。

■一方、人材確保については外国人活用のほか、国内では技能労働者確保に向け処遇改善等の施策が打ち出されております。

 技能労働者の確保の一つに社会保険未加入対策があり、日基協としても取り組んでいきますが、これには業界挙げての取り組みが必要で、我々としても国土交通省の指導の下に取り組みを進めてまいります。かつて我々の業界でも元請社員より技能工の方が賃金は高い時代がありましたが、今では賃金差はおろか、保険もない状況となっている。これを改善するためには協会の地位を高め、技術を認めていただける技能集団になる必要があります。その契機となるのが新たな基礎施工士資格です。これは登録基幹技能者とは別枠のものです。杭工事は土が相手になるため不確定要素が多く、それだけに現場技術者には多くの専門知識や経験が求められており、基礎施工士の役割は大きなものとなっています。

■なるほど。

 現在の日基協の資格である場所打杭の基礎施工士と、コンクリートパイル建設技術協会(コピタ)の既製コンクリート杭の既製杭施工管理技士を統合し、新たな基礎施工士資格とするもので現在、日基協ではコピタをはじめとする他協会とともに準備を進めております。最終的には、各協会で統一された基礎工法を総括した資格とし、有資格者が現場に常駐することを義務付けるなど総合評価方式での評価対象とするため国家資格となることを目指してまいります。そのため、当協会を含めた基礎業界の関連団体が一つにまとまる必要があります。

協会挙げて社保加入促進

■その協会副会長として全国の支部も回っておられますが、本部と支部との連携についてはどのように。

 本部と支部、協会としての基本方針は変わりませんが、地域によってはそれぞれ特性があります。ただ、地域によっては機械や有資格者を持たない業者が、地元業者というだけで受注している地域があり、元請もそれを承知している。こういった不合理を排除する必要があります。社会保険への加入は、そういったいわゆる不良不適格業者を排除する取り組みの一環であることから、先程も言いましたように協会挙げて取り組みを進めてまいります。会員数は協会設立当初から20社以上減少しており、会員企業の拡大も課題です。入会規定は厳しく規定されておりますが、これにより不良不適格業者は排除されております。

■関西支部の位置付けは。

 関西支部については、格別の思いがあります。もともと協会設立の経緯は関西から始まったものです。大阪の業者が団結し、東京へ呼びかけたもので、当初は西日本基礎協会の名称で活動しておりました。関西支部が他の支部と違うところは行政の認知度が高いことにあります。現在、杭工事を分離発注しているのは全国では大阪府だけです。勿論、瑕疵担保責任など、その分の責任も大きくはなりますが、支部会員各社ではそれに十分応えていくだけの技術力や信用力を備えているものと自負しております。いずれにしろ課題は山積しておりますが、私自身、建設業界の未来は明るいものと信じております。

 丸五基礎工業に入社して49年。最初の現場は東名高速道路の高架橋工事。その後、東京勤務等を経て、平成10年6月に5代目の社長に就任。創業50周年を迎えた今年を「次の100年に向けたスタートの年」と位置付ける。また、社業の進展はもとより、「杭屋、基礎屋と呼ばれている基礎工事業を、基礎工事のプロフェッショナル集団として認知される、杭の専門家としたい」と願う。和歌山県出身。72歳。



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