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八尾市 田中誠太市長  【平成26年05月26日掲載】

地元企業を育成し活力あるまちづくりへ

27年度まで耐震化率100%へ


 大阪平野の中部、大阪市の東南部に隣接し、大阪近郊のベッドタウン、また工業地帯として発展を遂げている八尾市。現在、人口約27万人を有し、八尾市第5次総合計画「やお総合計画2020」に基づいて、「八尾市全体のまちづくり」と「地域のまちづくり」の双方の視点に立ち、「未来の八尾創り」の実践を進めている。そこで耐震化工事や曙川南地区など保留区域3カ所の有効活用をはじめ、地下鉄八尾南駅周辺の新都市核に関わる国保有の八尾空港西側跡地開発への要望、高安中学校区における施設一体型小・中学校開校準備、さらに新たな地域貢献精通型指名競争入札制度の試行による地元企業の育成などについて、田中誠太市長に聞いてみた。

 
  曙川南地区など保留区域3カ所を有効活用
  八尾空港西側跡地は賑わいある新都市核に 

■はじめに八尾市のまちづくりを中心に防災などに取り組まれている現状や公共施設についてお聞きします。

 「市民の命を守るまちづくりに関しては、基本的なことですが、まず耐震化です。公共施設のうち、特に小・中学校などの学校園施設は、子どもたちが長い時間を過ごし、災害時には住民が安心して避難していただく避難所でもありますから、平成27年度までに耐震化100%達成を目指して重点的に取り組んでいます。また、八尾市の公共施設については、市民にとって重要な拠点となるものばかりですが、将来の財政的な負担なども考慮しながら、市民ニーズに合わせて、安心して持続していけるよう、施設のマネジメントの検討を進めているところです。施設の複合化あるいは集約化などの様々な視点から計画を作成していこうというものです。公共施設については、まず安全確保として耐震化を、その上で、効率的・効果的に公共施設を配置・運営していこうとしているわけです。さらに八尾は市街化調整区域が多く、3カ所の保留区域があります。この区域の有効活用を検討し、八尾の活性化を図っていきたいと考えています」

■保留区域が設定されている。

 「実は、4月に某銀行から八尾市の主な工業集積地と保留区域について、ぜひ企業誘致も含めて考えさせていただきたいという申し出がありました。その支店長会議に私も出席させていただきました。その席で『大阪府内の企業で、支店を通じて八尾に移転を考えておられる企業があれば、ぜひ八尾に呼び込みたい』という話をしました。4月末には何社かが現地を視察されました」

■移転を希望される企業もあるのですね。

 「はい。企業もすぐに進出というわけにもいきませんし、当然、保留区域の中で地主さんと話がついているわけではありません。ただ、八尾に興味を持っていただいているということだと思います。保留区域は、大阪外環状線(国道170号)沿いの曙川南地区(25.7ヘクタール)、服部川・郡川地区(18.3ヘクタール)、西高安地区・大竹地区(15.2ヘクタール)の3カ所です」

■市長自ら支店長会議に出向かれるのは珍しい。

 「私はトップセールスも、市にとって重要な効果があると思っていますから。八尾に企業を呼び込み、そして土地の有効活用を図るのは地域にとってメリットがあると思っています。その保留区域の西高安地区については、まちづくり勉強会が発足しており、土地活用について検討されております」

■地権者との合意形成には時間がかかる。

 「そうですね。他にも、曙川南地区については、まちづくり勉強会の地権者が約180人おられます。そのうち区画整理を検討している区域は150人程度だと聞いています。その地権者の約90%以上から合意をいただき、3月末に準備組合が設立されました」

■企業も熱い視線を注いでいるのですね。ところで、他にも大きな開発が期待されているところがありますか。

 「はい。興味を持っておられるところもあると聞いています。以前から国と話を進めてきた八尾空港の西側に未利用地があります。八尾市域が約7ヘクタール、大阪市域が約2ヘクタールの広大な国が所有されている土地です。地下鉄八尾南駅前で、八尾市の新都市核として位置付けているエリアで、これだけの用地が残っているところは他にありません。この土地は戦時中に空港が設置され、現在までに不要となったものなのですが、周辺住民の方々の中には、親や祖父母の時代に、自分たちの土地を買収された経過から、このまま活用されずに放置されることに対して強い想いをお持ちの方もおられます。また、駅前に広がる広大な土地ですから、できる限り早期に開発され、まちの賑わいや活気を生み出してほしいと願うところです。国も未利用となっている土地については、速やかに売却などの処分をしたいという意向を示されてきました。八尾市としては、新都市核としてふさわしい開発がされるよう要望し、地域の望む開発につながるような売却の手法などについて積極的に協議してきました。検討会議を設置して、国や大阪市、大阪府とともに検討させていただいています」

■民間企業などからも問い合わせなどがあるのですか。

 「大きな目立つ土地ですから、開発を手がけたいと考える企業や、どのような状況かを聞きに来られる企業もあります。土地の所有者が国ですから、ご質問にお答えする立場になく残念ですが、興味をお持ちのところがいくつもあるように聞いています。なお現在、国が売却手法について、地元自治体と協議しながら検討されているところで、これまで提案型価格競争入札のような手法も含めてご検討いただいていました。八尾市としても、その方向であれば、まちづくりの視点を持ちながら、進めていけるのではないかと期待してきましたが、まだ検討途中です。あくまでも、土地の所有者は国です。しかし、八尾市域にある土地ですから、国の意向に従って市の方針も聞いていただきながら新都市核として地域の期待に応えられる開発がなされるように努力していきたいと思っています」

■八尾市の南部の新都市核は、今後、具体化に向けてどのように進められていくのですか。

 「まず、まちの都市核としてどのような魅力を求めたいのかということについて、十分に協議させていただきながら、そのために、国でどのような手法で売却などの処分をしていただけるのか、明確な方針を出していただくのが第一。周辺のまちづくりをどこまで盛り込んでいただけるのか、また、周辺道路との関わりなど課題も多い。多くの企業からより良い開発の提案がなされるように、文化財調査についても、国で試掘を終わらせていただけないかなどと提案してみたりしています。企業側の開発に対する負担を小さくすることで、営利だけでなく、地域貢献にも力を入れていただけて、市民ニーズにより近い提案を考えていただけるようになるのではないかと思います」

■売却の話が持ち上がってかなり経つのでは。

 「かれこれ30年近くなりますね。少しでも早く今のような放置された状態から、まちづくりの視点を持つ開発に進めていくべきだと考えています。そうした民間活力を活用したまちづくりによって、賑わいの創出と合わせて、企業が誘致できれば雇用と税収アップにつながりますから、市民生活の向上につながるよう、積極的に国と協議していくつもりです」

■ところで年々増加する土木施設の維持管理については、どのように考えておられますか。

 「インフラ整備に関しては、すでに道路、特に橋梁を含めた長寿命化対策について計画を立てていますから、順次、その計画に基づいて対応していく方針です。長寿命化対策を実施しなければ、将来的負担は間違いなく大きくなります。事業実施に当たっては、国の交付金活用による財源確保も図りながら、計画的に取り組んでいきたいと思います」

■管理している土木施設の数は多いのですか。

 「橋梁だけで約480橋あります。その調査はすべて終わっています。今後は橋の重要度や老朽化などを考慮し、橋の序列をつけながら計画的に修繕工事を実施していく予定です。八尾の場合、長寿命化対策を経験している業者が少ないものですから、先般、公共下水道の管更生工事や橋梁などについて、八尾市内の地元業者を対象に説明会を行いました。管更生工事は、下水道新技術推進機構の建設技術審査証明を有する管更生工法に関する研修または講習終了技術者を配置技術者とすることを主な条件とした条件付一般競争で行います。インフラ整備は地元企業にお願いしたいという思いがあり、ぜひ頑張って地元業者が管更生や橋梁の長寿命化工事の競争入札に参加できるよう頑張ってほしい。市としても支援しています」

 
  地域貢献精通型指名競争入札を試行

■地元企業の育成に力を入れておられる。多くの自治体において、入札不調などが課題となっていますが、入札制度について八尾市の取り組みはありますか。

 「八尾市の入札制度の中で、基本的には地元企業に頑張ってほしい。これまでは入札制度を改正し、大型物件について市外業者はJVでないと入れませんでした。しかし、学校園施設の耐震化の入札では不調が続き、そのため昨年一部改正し、1回目は地元企業、2回目は市外業者単独で入れるように改正しました。今後、耐震化工事などの発注がピークを迎えるため、今回は1回目から学校園耐震化工事については、市外業者も入れるようにしました。これは、26年度と27年度の暫定措置です。27年度までに耐震化率100%を目指す八尾市の基本方針がありますから、地元企業にもご理解をいただきながら実施しています。入札の不調が続けば、27年年度までに耐震化工事が終わりません」

■地元企業が少なく、市外業者に頼らなければならない部分もある。

 「そうですね。市立病院の機能拡充工事では入札を5回行い1年かかりで落札者が決まりました。非常に厳しい状況下にあります」

■職人不足も影響しているのでしょうね。

 「4月からは入札制度を改正し、地域貢献精通型指名競争入札制度を新たに試行することにしました。この入札では中学校校区ごとに、今年15校区すべての校区で発注する予定です。地元の仕事は地元でやりたいとの思いが強く、自分たちの近くの仕事で地域に貢献できる。ですから今年度から実施予定の公共下水道施設の管更生工事などの企業育成と、この新しい地域貢献精通型指名競争入札の中で、地元企業には、ぜひ頑張ってほしいと願っています」

■地元企業に技術者がいて重機をきちんと持っているかどうかなど、しっかり評価してあげるのが大事ですね。

 「地域貢献精通型指名競争入札には、そうした部分も全て盛り込んでいます。重機の保有や防災協定を結んでいるか、また災害時にご協力いただけるのか、そういう地域貢献度・精通度などを評価します。この新入札制度によって一歩前進させ、また課題が見つかれば制度を改善しながら柔軟に対応していきたいと考えています」

 

■これまで業者の評価は、入札における価格面だけという面がありました。

 「私が市長に就任した時から、地元企業のきちんとした施工技術、品質管理および工程管理などができることが必要であり、地元企業を育成するとともに、 地元の建築物は地元企業の皆さんと一緒に建ててきたという思いを共有していきたいと申し上げています」

■談合などに関してもリスクが大きい。

 「八尾市はほとんど電子入札ですので、談合への対策はしっかりとっています。私どもも八尾の業者はきちんと守ってあげたいし、市外でも仕事ができるよう地元企業を育てるのが八尾市の責任でもあります」

  近畿大学建築部と連携

■話は変わりますが、近畿大学建築学部との連携協定についてお聞きします。

 

 「官学が連携することで、人的知的交流、まちづくりの推進と建築学の研究の発展に寄与することができることから、4月に協定を結び、近畿大学と連携してまちづくりを検討することになりました。 まず北部地域においては公園や市営住宅を含め、小・中学校、老人福祉センター、さらには青少年会館、人権コミュニティセンター、出張所、浴場など、公共施設・公共用地が非常に多い。これらが築後40年以上経っており、 近い将来建物の更新時期を迎えることとなります。ですからこれらを含めてまちをつくる視点で、同大学の建築学部と協力して取り組みます。同大学の建築学部には、住宅建築専攻の分野もあります。同大学は八尾市に近く、 学生とともに調査をしながら、まちづくりの再生と環境、エコ住宅や福祉型住宅など、様々な視点でまちづくりを考えていきたいと思っています」

■大学生と共にまちづくりについて検討するのは非常にユニークな試みですね。

 「利便性の高い快適なまち、また、防災に強いまちづくりを進めるためには何が必要なのかを調査・研究してもらいたいと考えています」

  タウン情報で観光案内発信
 

■他の地区の状況はいかがですか。

 「高安地区では、施設一体型小・中学校の開校準備会を今年4月に発足しました。これは小学校2校と中学校1校を新たに1カ所で開校しようとするものです。 この取り組みを進め、既存の小学校、中学校が新しい校舎に移転された後には、現在の施設などの有効利用を図ることもできるようになります。また、高安地区には大変貴重な資産として、 7万平方メートルに及ぶ古墳があります。その一部高安千塚古墳群の国指定認可に向けた手続きを進めています。地権者110人のうち7割以上の方から合意も得ています。 高安の歴史と自然に恵まれたまちづくりを目指していきたいと考えています。市ではこうした高安地域のまちづくりを考えるために、昨年からコンサルタントも入れながら検討を始めています」

■八尾市は歴史文化にも恵まれている。

 「はい。『Wao! Yao! 八尾の入り口』という八尾を紹介するガイドブックを昨年3月に発売しました。この本で八尾の歴史文化、産業、モノづくり、店舗などを紹介し、 八尾市にある観光資源を情報発信しています。増刷を重ね現在発行部数が二万部を超えています。多くのテレビや新聞でも取り上げられました。 一般社団法人八尾市観光協会を昨年11月に設立して近鉄八尾駅中央口の1階に観光案内所を設けています。観光協会がこれから『Yaomania』(ヤオマニア)というフリーペーパーを 年間4〜6回のペースで出していく予定です。タウン情報を、どんどん発信していくことが、地域のまちづくりに大きく関わってくるわけです」

■なるほど。最後に防災について一言。

 「一昨年、八尾市域防災計画の改定を行いましたが、昨年暮れに南海トラフ巨大地震に関する被害想定などが出されましたので、それに基づき、もう一度見直します。 八尾市の防災計画の特徴は、災害発生初日、2日目、3日目と刻々と変化する状況の中で、災害対応が適切に行えるよう時系列での組織体制を取り入れているところです、 また、災害対策本部を構成する29の班ごとの活動マニュアルを策定しており、このマニュアルに基づき全職員がしっかりと担当責務を果たすこととしています。 さらに、小・中学校には順次、防災備蓄倉庫を設置することなどの指示をしています。今後も防災訓練などを通じて、地域とともに防災の取り組みを進めます」



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