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近畿生コンクリート圧送協同組合 増田幸伸理事長  【平成27年03月02日掲載】

「技術と安全」第一に

ゼネコンと対等な取引関係を

近畿は一つ、健全な経営活動推進


 公共工事設計労務単価が3年連続で引き上げられるなど職人の処遇改善の動きは着実に前進しているが、若者の入職促進および育成は依然、建設業界にとって深刻な問題であり、その解決に向けて専門工事業団体の果たすべき役割は大きい。そこで、(一社)大阪府建団連(北浦年一会長)の会員団体の新理事長に就任の抱負や今後の取り組みなどを聞いてみた。第1回目は近畿生コンクリート圧送協同組合の増田幸伸理事長。

■はじめに理事長に就任された抱負と、これまでの経緯についてお聞きします。

 「長い間、全国の圧送業界では、適正圧送料金を収受できないとの声が多く聞かれました。原因は、需要低迷やゼネコンの買い叩き、圧送事業者間の過当競争にあるとされていました。その結果、圧送事業者の減少(破産・倒産、閉鎖)、保有ポンプ車両の削減や老朽化、雇用労働者への賃金・労働条件・福利厚生の低下、新たな入職者の減少をもたらしました。大阪でも2000年頃には圧送料金が1立方メートル当たり600円という低価格競争を繰り広げていました。これをどう再建していくのか大きな課題でした。その中、ポンプ事業者間で何度も話し合いを行いました。このままだと叩き合いで潰れるという危機感がありましたね。崩壊の危機の前で、協同組合再建に向けたコンセンサスが生まれました」

■近圧協の前身は大阪生コンクリート圧送協同組合(大圧協)ですね。1974年に設立されている。しばらくは機能していなかったと。

 「親睦団体のようなものでした。全国コンクリート圧送事業団体連合会(全圧連)もその当時に設立されました。どの協会・団体も基本は、当然値段を上げたいわけです。業界とすれば制度、たとえば資格を作って、自分らの優位性をアピールしたい。協会・協同組合に入らない人と入る人の違いを設けたい、差別化したいわけです。専門工事業者は資格を自分たちがつくる、または所轄官庁に策定してもらっています」

■共同受注を始められたのはいつごろですか。

「2003年の秋口からでしたね。事前に協同組合員の意思疎通を徹底しました。ゼネコンさんといえども対等な取引関係を形成します。また、ゼネコンさんに契約を遵守してもらうよう努めました。少しずつ進めて、多くのゼネコンさんに了承いただくように尽力しました。また、旧来の見積もりではなく、きちんと車両代と経費に分けて原価構成を明らかにした基本料金制を打ち出し、適正料金を収受し、現金決済しました。昨年度の共同受注の売上は453万立方メートル、64億円でした」

■地道に交渉を重ねて最後は大手のゼネコンにも認知してもらった。

 「そうですね。その時に私たちの背景にあったのは、圧送で働いている労働者の社会保険などの労働条件です。まず、社会保険をかけ、労働基準法を守ること。圧送技能工を大切にするだけでなく、労働コストを下げるから適正な圧送料金を収受できないし、事業者間の足並みも揃わない。『労働コストの平準化』の観点がなければ、掛け声ばかりでコンプライアンスも共同事業も進みません。そのために危機をバネにして、料金を下げられない仕組みをつくりました。発想を変え、労働者の賃金・労働条件・福利厚生を適正化し、各企業の労働コストを平準化すること。労働者・労働組合との円滑な労使関係が共同事業の基礎となるよう位置づけることが重要だと思いました」

■2003年の共同受注を始められたころには、社会保険もクリアされていたわけですね。

 「はい。全部加入までは07年までかかりましたが、大部分は03年でクリアしました。また、我々には、団結とお互いに助け合う素地がありました。ところで、今後の課題は付加価値をどう高めていくかだと思っています。機械は高額。技術・技能がなければ安全施工できない。ポンプ車両は高額であり、また、操作するのには、資格試験を通る頭脳と体力も要る。この付加価値を売り込まなければならない。『技術と安全』を集中的に売り込むわけです」

■技術と安全管理、その取り組みを教えてください。

 「大事なことはゼネコンさんとのパートナーシップを形成すること。ゼネコンさんが言うからするのではなく、我々が何をなすべきかという観点が必要であり、それが技術と安全です。大阪工業大学二村研究室や日本建築学会に相談し、2004年には第1回圧送技術研究会を開催しました。現状の圧送工事業の課題を提起したわけです。次に理論や実験、データ解析できる研究グループが必要となり、日本建築学会近畿支部材料施工部会に研究依頼し、ポンプ工法ワーキンググループ(ポンプWG)を設立しました。毎年、ゼネコンさんやポンプメーカー、生コン製造業者らと一体となり、フィールド実験を行い、その成果を検証しています。今年2月18日には11回目の圧送技術研究会を実施しました。2006年には実験結果を取り入れ、現場で必要な圧送性評価ソフトを開発し、このソフトのCDも配布しています」

■なるほど。取り組みが早かった。

 「中小企業等協同組合法も何度も読みました。協同組合法は一つの宝です。対等な取引関係を形成するために協同組合法があるわけです。ですから愚痴をこぼすのではなく、ゼネコンさんと対等な関係をつくろうと努力したのです。パートナーシップを形成するのは、お互いにとってメリットがあります」

■安全面については。

 「私たちが全力で取り組む領域です。たとえば、各社に月1回の安全会議を義務付けています。会議を開催しなければ罰則を与えます。また、協組では労使の代表で安全委員会を定例化しています。そこで、いろんなヒヤリハットの事例がでてくる。それを各社の安全会議にフィードバックして注意を喚起します。さらに、職長・安全衛生責任者教育も行っています。救急救命講習も実施しています。また、年1回の安全大会を開催し、安全に対する意識を徹底しています。昨年は熱中症対策として経口保水液ОSIに加えて空調服を全従業員に配布しました」

■最後に今後の展望についてお聞きします。

 「大圧協は兵庫・奈良県の事業者を加え、3府県を事業エリアとする近畿生コンクリート圧送協同組合として組織再編されました。さらに、一昨年に京都府、昨年に滋賀県も近圧協の事業エリアとなり、共同受注と標準圧送料金の収受、現金決済を実施します。近圧協は96社633台を保有する全国最大の団体です。『近畿は一つ』の理念のもと、今後も健全な経営活動を進めていく所存です」



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