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近畿地方整備局港湾空港部 稲田雅裕部長  【平成28年03月28日掲載】

広域連携で津波対策

大阪湾をスマートベイへ


 社会経済活動において、物流拠点となる港湾の果たす役割には重要なものがある。特に、大阪湾沿岸や日本海、太平洋といった異なる海域に港湾を有する近畿圏では、それぞれの特性に応じた港湾整備が求められているが、近畿の港湾行政をリードする近畿地方整備局港湾空港部では、様々な施策を展開し、港湾機能の拡充に努めている。その港湾空港部の稲田雅裕部長に、今後の見通しを聞いた。

  BCPの取り組み

■大規模災害等に対し、港湾でも防災・減災対策の必要性が指摘されており、その中で大阪湾に関するBCPが策定されましたが、まずはその取り組みからお聞かせ下さい。

 26年3月に「大阪湾BCP(案)」を策定しました。策定には多くの関係機関が関わり、それぞれがBCPの実効性を高めるための図上訓練等を行う中で、新たな課題が次から次に出てきます。それらの課題の解決策をさらにBCPの中に反映させることで内容が深化、高度化していくことから、完成形のない「案」としています。
 国土強靭化基本計画では、重要港湾以上は、それぞれ28年度中を目途に港湾BCPを策定することが求められています。近畿地方整備局管内では、27年度に神戸港や大阪港など6港、28年度には京都舞鶴港など4港でとりまとめられる予定です。これら各港湾のBCPとそれらを包括する広域のBCP案をしっかり運用することで、きたるべき時に備えていきます。

■津波対策は如何ですか。

 今年度、当局が事務局を務めるワーキンググループによる「近畿臨海部津波対策アクションプラン」が改訂されました。平成18年度の策定以来、5年ごとに改訂され、前回は東日本大震災直前の改訂でした。震災後、自治体ごとに津波対策が計画されましたが、大阪湾全体として各港湾がどのような取り組みを実施しているのかを理解した上での広域連携が必要で、それらの取り組みに横串を刺すのがアクションプランです。今回の改訂では震災の教訓を踏まえてより具体的なものに変わっています。このアクションプランも大阪湾BCPも、広域的な連携が重要で、そういった取り組みの間を取り持つのは国の役割だとの観点に立っています。

■なるほど。

 また各自治体から、南海トラフ巨大地震の津波による浸水被害想定やそれに応じた対策のあり方等が公表されていますが、地理的な位置関係等で対策も変わってきます。例えば和歌山県の場合、津波到達時間が早く、構造物だけでは守りきれないところもある。地形に応じた湾口防波堤や既存防波堤のねばり強い構造への改良等により、ある程度の津波防御は必要ですが、やはり逃げることが基本となります。
 他方、大阪湾の奥部である大阪や神戸では津波到達までに時間があり、津波の想定高さも和歌山県程ではないため、既存防波堤の液状化対策や老朽化対策等が対策の中心になります。しかし、いずれにしても巨額の予算が必要で、防災・安全交付金の現状予算レベルではとても追いつかない見通しですので、いかに工夫して取り組んでいくかを考えていかなければなりません。

  阪神港の取り組み

■大阪湾港湾の基本構想も策定されました。

 港湾法に基づく港湾計画は10年から15年ごとに見直しが行われますので、大阪湾内各港も間もなく一斉に港湾計画の見直し時期を迎えます。大阪湾全体の統一感や理念等を、各港湾計画の見直しに先立って、関係者合意の下に作っておくことが重要だということで、10年ごとに当局と関係港湾管理者からなる大阪湾連携推進協議会によって「大阪湾港湾の基本構想」が策定されており、昨年12月にまとめられました。
 今回は、「スマートベイの実現を目指して」とのタイトルです。最先端のICTを駆使した、未来型の効率の良いという意味のスマートをまさに具現化した港湾群によって、物流や人流の効率面で最先端をいく大阪湾地域とするための理念をまとめたものです。個別の各港湾もその理念の中で、10年、15年先の未来の港湾計画を策定していただくためのものです。

■次に阪神港の取り組みを。

 国際コンテナ戦略港湾では「集貨」「創貨」「競争力強化」の3つを政策の柱にしています。「集貨」に関しては昨年、西日本各港と阪神港につながる国際フィーダー航路が拡大し、これまで1週間で68便だったものが94便と、4割程増え、それだけネットワークが密になりました。これら新航路では昨年で13万TEUの貨物を集荷することができました。ちなみに直近の調査では我が国のコンテナ貨物のうち140万TEUが釜山港経由で欧米とつながっていますので、13万TEUというのはおよそ1割相当ということです。このような成果もあって、神戸港では、震災後、最高の取扱量を達成できました。中国経済の減速を受け、全国の主要コンテナ港湾が取扱量を減らしている中で、神戸港が伸びたことは政策効果の現れではないかと思います。

■今後にも期待が持てますね。

 「創貨」は、港湾の背後地で物流倉庫等を集中立地させて貨物を創り出す取り組みです。神戸港ポートアイランドで国からの補助金を利用した倉庫が間もなくオープンする予定ですし、六甲アイランドでは、港湾法改正で創設された無利子貸付制度を利用した倉庫の整備が計画されています。また、「競争力強化」については、世界一級のコンテナターミナルの整備が神戸港六甲アイランドと大阪港夢洲で進められ、いずれも来年度の暫定供用開始を目指して工事が進められています。

  来年度の取り組み

■来年度事業はこれらが中心となる。

 戦略港湾についてはこれら工事を中心に予算を組んでいきます。地域創生への取り組みでは、京都縦貫道の開通による効果もあり京都舞I港でクルーズ船が好調ですし、北海道と結ぶフェリーターミナルも来年度の完成に向けた予算を組んでいきます。また、和歌山下津港の直轄海岸事業では、整備計画の全面見直しにより、浮上式防波堤に代わる護岸や水門を整備することとし、来年度から本格的な工事に着手します。計画では水門6基を整備し、このうち1基は来年度に完成の予定です。

■その他の取り組みは。

 国土交通省の重点政策として「生産性革命」を進めることとしています。港湾では、クルーズ需要の取り込みとして、既存貨物岸壁の改良など少ない投資で大型クルーズ船を呼び込み大きなインバウンド効果を得ることが代表例です。管内では京都舞I港などで既存貨物岸壁の防舷材や係船柱の強化改良等を実施します。また、大阪泉南には沖合海底にドーム球場26杯分にも及ぶ深掘跡があり、青潮が発生する原因とされていることから、漁業関係者や地域住民から元に戻してほしいとの要望が出ていました。このため、様々な工事からの発生土砂等を活用して埋め戻すこととし、その関係窓口を当局港湾空港部に一元化することとしております。

■建設業界では担い手の確保・育成が課題となっております。

 担い手確保の点から、総合評価方式に関して、若手技術者の登用や女性の活用等の試行のほか、新たな取り組みではゆとりある工期として任意着手制等も試行しております。
 ただ、海洋工事では、人材もさることながら作業船自体が減ってきています。ここ5〜6年で船腹は2割程度減少し、昨年に閣議決定された社会資本重点整備計画では、作業船の現状維持が掲げられていることから、作業船を保有する企業に対し総合評価での加点措置を実施します。また乗組員の確保育成が必要など、陸上工事と比べ厳しい面があることも実情ですので、そのような特殊性に配慮した的確な施策を講じていく必要もあると思っています。

■ありがとうございました。



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