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近畿地方整備局 寺本耕一建政部長  【平成29年01月05日掲載】

社会保険未加入対策の現状と取り組み

人材定着へ 今やらねば

現場の生の声も集めながら


 平成29年度を目途に、許可業者の加入率100%、労働者単位では製造業相当の加入状況を目標として取組みが進められてきた社会保険未加入対策。これまで、国土交通省はじめ業界団体等が一体となり加入促進に努め、企業単位では一定の成果が見られている。しかし、労働者単位での動きは鈍く、特に二次下請以下から一人親方の扱いについても不確定要素が残る状況となっている。この状況の中、近畿地方整備局建政部の寺本耕一部長に、最終局面を迎える社会保険未加入対策の現状と取組みについて聞いた。

■まずは、現在の建設業をどうご覧になります。

 建設業は、国民の暮らしや経済活動を支えるインフラ整備を行うものであり、新たな構造物の構築はもとより、維持管理やメンテナンスなど、地域の安全と安心を担う欠かせない存在です。国全体の経済や雇用にも寄与しています。業態としての特徴は、様々な現場で、異なった構造物を造っていくことになりますが、そこでは施工者の力量によって工事品質が左右されることです。このため、人材が最も大切な要素であると思います。
 その一方で、建設産業を取り巻く環境は大きく変わってきました。特に就労者の高齢化が進み、若年層の割合が低くなっています。例えば、建設業就業者における55歳以上の割合が、全産業の29・2%に対し33・8%、29歳以下は16・2%に対し10・8%です。現状では大きな影響は出ていませんが、10年後、20年後を見据えた場合、高齢者が退職した後、若い世代が技能や技術を上手く継承できるかどうかという課題があります。

■確かに。

 若年層の離職率を見ると入職後3年目までが多くなっています。技能や技術を身に付け、やり甲斐を感じるまでには時間がかかりますが、現在ではそこに至るまでに離職することが非常に多いです。そこでの課題は若年者をいかに定着させるかです。定着率の高い企業の取組みでは、技能資格を取得させるための支援を行っているところが56・0%、次いで社会保険への加入が55・7%となっています。この点からも処遇改善が担い手確保の上でも重要な取組みだと思います。
 このため国交省では、建設産業を人材投資成長産業と位置付け、特に処遇改善や社会保険未加入対策を重点施策としています。今の時点で手段を講じておかなければ、後世に悔いを残すことになります。

■その社会保険未加入対策については。

 平成24年3月の中央建設業審議会の提言を受け、平成29年度を目途に企業単位では建設業許可業者は100%、労働者は製造業並みの加入を目標として取組みを進めてまいりました。近畿地方整備局では、管内の行政と元請・下請、関係者で構成する社会保険未加入対策推進近畿地方協議会を設置して取組みを進め、昨年2月には加入徹底について、7月にはその確認についての申し合わせを行ってきました。
 近畿地方整備局独自の取組みとして現場の生の声をお聞きするということで、昨年6月から順次、各専門工事業団体との意見交換会を実施して国交省の施策に対し理解を求めるとともに、専門工事業の抱える課題等の意見を収集したほか、8月には個別相談会付きの社会保険説明会、12月には法定福利費に関するセミナーを開催してまいりました。
 また建設投資ベースで見た場合、民間工事が6割を占めることから、民間工事を施工する元請業者を対象に社会保険加入を促すための立入検査を実施しています。これまで65社に立入検査を行っておりますが、各社の下請会社も含めればかなりの数になり、その効果は大きいと考えております。これら取組みの中では、地方部に比べて都市部での加入率の低さ、二次下請以下での低さが課題として見えてきたことから、さらに加入促進に向けて取り組んでまいります。

法定福利費の確保など

■目標達成まで3カ月と迫りました。

 未加入対策における主な取組みですが、まずは対策の強化として、元請による加入指導強化と公共工事からの未加入企業の排除、未加入業者の見える化です。
 2つめは法定福利費の確保です。法定福利費の内訳を明示した見積書の活用に関して、元請から1次、1次から2次、2次から3次まで、それぞれが見積書を提出しているかどうか、また、その見積書を尊重しているかどうかを立入検査等でチェックしております。法定福利費のきちんとした流れをつくらないと、加入促進にはつながらないと思います。
 3つめは、保険に加入すべき対象を明確化することで、特に一人親方等の扱いをどうするのか。労働者である社員と請負関係にある者を明確に区分した上で、再下請通知書と作業員名簿を作成し、社員については保険加入を適切に行う。元請については、名簿記載の社員が労働者か請負関係にあるかどうかの確認とともに、一人親方の労働者性と事業者性の判断基準についても周知を徹底させていきます。適切な保険に加入していない者については、特段の理由がない限り現場の入場を認めないこととしておりますが、これについても通知を発出して徹底に努めております。

■担い手確保育成に関しては。

 近畿では、専門工事業のものづくりの魅力や楽しさをアピールするため、大阪では昨年、3回目となる技フェスタが、滋賀でもけんせつみらいフェスタの2回目が、奈良ではワクワクけんせつ体験が、それぞれ開催されました。いずれも若い人や子ども達がものづくり体験を通してその魅力・楽しさに触れる取組みであり、今後も充実され、広がっていけばと思います。近畿地方整備局でも昨年、東大阪市の中学校の先生を対象に、現場見学会や出前講座の説明会を行い好評を得ています。機会があれば各地でも実施したいと考えております。
 また、技能者の資格や就労履歴等を業界で統一したルールで蓄積したシステムを構築し、それにより資格や経験を適切に評価して処遇改善等につなげることを目的に、建設キャリアアップシステムの運用に向けての準備が進められております。このほか、働き方改革として週休2日制の導入、職場環境の改善による女性登用など、様々な視点からの取組みも行われています。
 いずれにしましても一つの取組みが実現したからといってそれで終わりといったものではなく、長い目で継続していくもので、建設業が魅力ある産業として選ばれていくために、地道に取り組んでまいります。

■ありがとうございました。



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