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那須 基 堺市技監  【平成29年07月31日掲載】

歴史・文化のまち「堺」のさらなる活性化へ

堺駅・堺東駅エリアで中心市街地を形成

大和川、泉北など豊かな自然も生かして


 大阪堺市では現在、市庁舎のある堺東駅前地区での再開発事業を推進するとともに、市内の歴史や文化資産を生かしたまちづくりが進められている。その堺市に国土交通省から昨年七月に着任した那須基技監は、「堺市は泉州地域全体を先導する役割を担っている」とし、市が取り組む各種の計画に期待を寄せながら、これまでの経験を基に、「中心市街地の活性化には地区の核づくりが必要」と指摘する。その那須技監に、堺東地区や泉北ニュータウン再生など、堺市が取り組む各種のまちづくりについて聞いてみた。

■堺市における中心市街地活性化への取組みについてお聞かせ下さい。

 堺市は、古くからの歴史や文化が継承され、かつ昔から産業のまちとして知られ、活力あるまちだと思います。また、堺が発祥とされるものも多く、常に新しいものを取り込んでいくという積極的な意識が高いまちであるとも感じています。さらに自然にも恵まれており、まちづくりにおいては、緑地をはじめ山並み景観などを生かしていけば、もっと良いまちになるのではと思います。
 ただ、魅力が多いということは、裏を返せば魅力が分散してしまうという危険があるとも言えます。従って、やはり堺市のまちづくりにおいては、中心となる「まちのコア」が必要で、そのために、南海の堺駅から堺東駅までのエリアを軸に中心市街地としてとらえ、現在、堺市民芸術文化ホールや市役所周辺での市民交流広場等の整備事業を鋭意進めているところです。

■ソフト面での取組みは。

 まちの賑わいや活性化という点からは、これまでも市民や地元商店街の方々が中心となって様々なイベントに取り組んでおり、市としてはそうした活動を支援していきたいと考えています。先ほどの市民交流広場なども活用して、一層の活気に溢れた賑わいづくりを進めていきたいと思います。
 やや変わった取組みとしては、世界遺産を目指している百舌鳥古市古墳群の写真を撮り、所定の場所に持って行けば「もずふるカード」を配付しています。これは、今話題になっているマンホールカードと同様に、現地に行かなければ貰えないということで、SNSなどで話題になってもらえれば、堺市を訪問するお客さまが増えていくのではないかと期待しています。
 また、中心市街地以外でも、堺には自然も多いことから、その自然を活用したまちづくりも可能ではないか。その一つとして大和川も大きな資産です。例えば現在、大和川左岸の三宝地区においてスーパー堤防の整備と一体となって土地区画整理事業が行われていますが、これにより川と一体となった新たなまちづくりができれば、全国に誇れるモデル的な事業になると思います。
 同様に、自然の豊かな泉北ニュータウンに巡らされている緑道というのがありますが、これなども積極的に活用して散策のできる歩道整備や、国でも自転車活用推進法ができたことから、自転車を活用したまちづくりなども視野に入れて取り組みたいと思います。

■泉北ニュータウン再生事業について。

 ニュータウンの老朽化や入居者の高齢化等は全国的な問題となってきています。堺市では泉北ニ
ュータウンの再生を重要施策として、今年四月に組織体制を見直して市長直轄の担当部局を設置し組織横断的に取組みを進めています。再生にあたっては、単に建物を建替えるだけでなく、医療福祉や子育て支援など、様々な観点から取り組む必要があるからです。
 実は、泉北ニュータウンは、今年まちびらきから50周年を迎えました。その記念式典を市が主催しましたが、本当に多くの方にお集まりいただき、想像以上に盛大なものとなりました。これを現場で見て感じたことは、泉北ニュータウンは十分に潜在的な活力を持っているのではないかと。この力をさらに大きなものにしていけば、再生への可能性は大いにあると感じました。

■先程、まちの活性化には核が必要とのことですが、泉北の場合は泉ヶ丘がその役割になる。

 泉北ニュータウンにおいては、当然泉ヶ丘はその中心的な位置づけになり、栂・美木多、光明池と併せてそれぞれの地域で活性化を図っていくこととなります。
 それから、少し個人的な意見となりますが、私は市全体から見れば、泉北だけに資源を集中して活性化するというのは難しいと思っています。今までのニュータウン方式では可能かも知れませんが、社会経済情勢が厳しい中で、ニュータウンの再生に必要なのは、もっと大きな地域全体への波及を考慮することだと思います。端的に言えば、南海電鉄の沿線で考えると、大阪の難波が活性化すれば、沿線の堺東に波及するし、さらには泉北にも波及するということです。つまり、泉北を活性化するには、中心市街地である堺東地区を盛り上げる必要があると思っています。
 その堺東ですが、私もこれまで全国各地を見てきましたが、市役所から歩いて5分程度の距離に踏切がある政令市は他にはないと思います。通常、踏切は交通安全や地域分断等の障害となっており、一般的に中心市街地の鉄道駅は高架化され、高架下も有効利用されています。
 そういう面から見ると、将来的には、鉄道を高架化して地域分断を解消することで、活性化を図っていく必要があります。やはり駅前には、マンションも必要ですが、商業施設やオフィスも立地しなければ、なかなか活性化につながらないのではないか。駅前にオフィス需要が生まれれば、泉北ニュータウンから通勤してくる人も出てくる。そうなると泉北ニュータウンの居住者も増えてくるというように、広域的に戦略を考えるべきだと思います。

■民間投資を呼び込むような取組みも必要です。

 単に再開発と言っても、しばしば見られるように、行政が建物を作る、あるいは、再開発ビルの床を保有して運営するといった形態では限界がありますので、地元企業による身の丈に合った事業を推進すべきです。
 堺東の場合は、梅田やミナミと重複するような開発ではなく、客層のターゲットをよく見定めて、駅チカといった立地特性を生かしたまちづくりが必要かと思いますね。ハードで言えば、例えば駅前のバスターミナルと商業ビルを組み合わせたもの、まちの顔として、市民交流広場と隣接する商店街との道路と一体的に整備するなど、新しいものを整備するだけでなく、既存施設を活用して整備を進めることも一つの方法です。
 また、中心市街地は堺東だけでなく、臨海部にも堺旧港などの歴史資産があり、臨海部と連携した取組みも考えられ、その拠点として、大浜北町市有地の民間活用も進めています。また、海外からの観光客も増えていることから、これらインバウンド効果を生かし、関空から臨海部の堺駅を経由した展開も考えられます。また、クルーズ船の寄港も一考に値すると思います。
 さらには、堺市の活性化は単に堺市だけにとどまらず、堺以南の泉州地域、和歌山も含めた全体の活性化にも寄与するものであり、これらの地域を先導していく役割も堺市には求められていると思いますね。

■これらの取組みを実現するには建設業、特に地元企業の役割も大きなものがあると思いますが。

 かつて発注業務を担当したことがありましたが、その時に、地元業者がいかに努力されていることがよくわかりました。地方を元気にするためには、経済波及効果の高い地元建設業が果たす役割は非常に大きいと思います。今後、中心市街地やニュータウンなどの再生を図る中で、企業活動の一層の活性化を期待しているところです。
 話は少しそれますが、災害時における復旧や復興は、東日本大震災を例に挙げるまでもなく、地元業者の力が必要となっています。行政と業者の関係を健全に保ちながら非常時に地元業者に動いていただくためには、普段から信頼関係を築いておくことが必要です。例えば、危機管理に寄与する団体や業者に対するインセンティブにより、頑張る地元業者のやる気を出していただくことも重要です。

■発注者側の適正な評価は必要です。

 市内でできることは市内業者にお願いすることが基本ではないか。そういったことにより業者側のモチベーションを高める工夫を発注者としても考える必要があると思います。地元業者が何を求めているのか、日頃からリサーチしておくことも重要です。

■今後も堺市の活性化にご尽力下さい。

 
 那須基(なす・もとい)
平成3年3月北海道大学大学院修士課程修了、同年4月建設省入省、同5年4月建設省下水道部下水道企画課係長、同9年4月東北地方整備局福島工事事務所課長、同12年4月厚生省廃棄物リサイクル部リサイクル推進室補佐、同14年7月国土技術政策総合研究所下水道研究室主任研究官、同19年4月国土交通省近畿地方整備局建政部都市調整官、同20年4月浜松市上下水道部下水道工事課長、同23年7月国土交通省下水道部流域下水道計画調整官、同25年4月同下水道部下水道事業課町村下水道対策官、同27年5月UR都市機構経営企画部投資管理チームリーダーを経て、同28年7月より現職に。北海道出身。50歳。


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