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大阪府西大阪治水事務所 川上 卓 所長  【2024年09月30日掲載】

安全・安心の確保へ 第一線の防潮ライン形成

防潮堤、水門、排水機場の整備、維持管理


 近年、気候変動により自然災害が頻発化・激甚化し、台風や豪雨による被害が発生し、また地震活動も活発化しており、それらに対する備えの重要性が高まってきている。大阪市域における河川管理を担う大阪府西大阪治水事務所では、高潮や地震津波から市街地を守る防潮堤や水門等の整備に努めている。また、事務所に併設する津波・高潮ステーションでは防災活動の啓発も行われているが、それら事業を統括する川上卓所長に、同事務所の役割や現在実施中の木津川水門、安治川水門、尻無川水門の「三大水門」の更新事業等について聞いた。

■まず事務所の業務と役割から。

 当事務所では、大阪市域の一級河川を管理しており、地域的には大まかに言えば上町台地より西側の地域を担当しています。主な役割は、高潮対策と洪水対策です。高潮対策は、過去に室戸台風やジェーン台風で大きな浸水被害が発生したことから、防潮堤の嵩上げを行ってきました。しかし、地下水汲み上げによる地盤沈下が進行したこともあり、昭和36年の第2室戸台風でまたも大きな被害が出たことから、より高い安全確保を目指した防潮施設として水門整備が計画されました。
 また当地区の上流域にあたる寝屋川流域での、洪水氾濫や内水浸水を防ぐため、大雨時には淀川に設置されている毛馬排水機場の操作を行います。同排水機場は国が所有していますが、大阪府が委託を受け操作を行っています。
 この防潮施設や排水機場等の維持管理と操作が当事務所の大きな役割となります。さらに近年では、大阪・関西万博を控え、大阪の魅力向上として河川敷等の水辺を活用し、船着場の整備や橋のライトアップ、水辺のにぎわい施設等の支援も行っています。

■現在では高潮はもとより、津波対策も重要な役割です。

 南海トラフ地震では、かなりの高さの津波が予測されていますが、高潮との違いは津波の前には地震が発生することです。阪神淡路大震災では津波は発生しませんでしたが液状化により多くの堤防が被害を受けたことから、津波対策として防潮堤の耐震補強を行い、津波発生時には水門閉鎖を行うこととしています。堤防の耐震補強は、平成26年から特に危険な箇所について3年間の緊急対策として先行実施後、残りの区間も引き続いて実施し、令和5年度末には六軒家川の補強完了をもって、総延長約22キロの防潮堤補強対策が完了しています。現在は三大水門の更新事業にシフトしています。

■なるほど。

 当事務所が管理する水門は現在、九か所設置されていますが、閉鎖にあたっては、旧猪名川水門を除き津波警報のJアラートと連動し、自動的に閉鎖されます。ただ、出来島と三軒家水門は注意報で閉鎖します。
 また、多くの河川沿いには造船場や工場へ資材や原料を運搬する船が接岸するため防潮堤に開口部があることから、そこには鉄扉が設置されています。鉄扉の閉鎖は、津波警報が出た場合は、地元水防団や予め指定されている近隣に居住する府の職員が閉鎖作業を行うこととなります。高潮対策としての水門の閉鎖は、台風到達予測の概ね6時間前、鉄扉は2時間前を目途に閉鎖します。

■平成30年の台風21号の時には三大水門をはじめ水門と鉄扉を閉鎖したことで、中之島をはじめとする大阪市内の浸水を防ぐことができ、改めて防御施設の重要性が確認できました。

 三大水門は、昭和45年に完成し、順次供用を開始しました。更新にあたっては老朽化の進み具合に合わせ、最も老朽化が進んでいる木津川水門から着手し、次いで安治川水門、尻無川水門と更新していきます。木津川水門では令和4年10月に受注者が決定し、既に現場工事に着手しております。安治川水門に関しては設計が終了し、工事契約に向け手続きを行っています。
 現在の三大水門の規模やサイズは全て同じで副水門の規模が少しずつ違うだけです。形式はアーチ型ゲートで、この形式の水門は日本ではこの3つだけです。ただ、この形式は津波を受けた場合、ゲートが変形する可能性があることから、更新にあたってはローラーゲートとして整備します。整備スケジュールは、現在の水門の寿命と考えられる、木津川水門は令和13年、安治川水門は令和16年、尻無川水門は令和23年までに、それぞれ整備を終える予定です。
 また、これまでの水門は、伊勢湾台風クラスの波浪高さを想定し、天端高さをOP+7・40メートルで計画していました。しかし気候変動により海面自体が高くなり、台風の規模も大型化して高潮も高くなると予想されることから、新水門は将来の天端高さをOP+8・64メートルとして計画しています。
 このほか、安治川水門では、万博等を契機に舟運が観光コースとなる可能性もあることから、景観に配慮し、大阪のシンボルとなるようにデザインを検討しています。また、西区の旧川口居留地前の安治川では海から来る船の川船への乗り換え場所として新たな船着場を整備し、堂島や梅田方面に船で乗り入れることも可能とするなど、まちの魅力向上にも取り組んでいきます。

   津波・高潮ステーションで防災意識を啓蒙

■津波・高潮ステーションについて。

 津波・高潮ステーションは、平成16年9月に発生した震度4の地震により損傷した旧事務所の建替えに伴い計画されました。その頃南海トラフ地震による津波が注目されていたことから、防災への啓発活動に資する施設として計画されました。さらに同年末にスマトラ島沖地震による大津波が発生したことも建築計画の後押しとなりました。ステーションは、事務所の半分を占める防災棟の1階部分に設置され、平成21年9月に開館しました。
 施設は、過去に大阪で発生した高潮や、南海トラフ地震と津波に関する知識を学習しながら、災害発生時の対応を学べるよう、様々に工夫した展示内容となっており、映像も時々に応じて更新し、英語や中国語への多言語対応も徐々にバージョンアップしています。この施設に関しては、将来的に発生する南海トラフ地震を考えると、特に小中学生の方々には是非にでも見学に訪れていただきたいと思っています。

■今後もご尽力をお願いします、ありがとうございました。



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