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    令和7年新春特集号対談       【2025年01月06日掲載】
 
     持続可能な建設業を目指して
             第3次担い手三法の推進を
 
 「地域の守り手」役割果たす
教育や処遇 海外と格差

近畿地方整備局企画部 橋伸輔部長
建設産業専門団体連合会 岩田正吾会長


岩田会長 橋部長




 [オブザーバー]

近畿建設躯体工業協同組合
 山岡丈人理事長
 渡辺睦翁副理事長
 岡本征夫理事

  

 担い手の確保と生産性向上、地域における対応力強化を図り、持続可能な建設産業の実現を目指して昨年に施行された「第3次担い手三法」。同法では、技能労働者に対する処遇改善に関してかつてない取組みが示されたものとなっている。こうした中、近畿における建設行政を先導する近畿地方整備局の橋伸輔企画部長と、同法改正に携わってきた建設産業専門団体連合会の岩田正吾会長に、それぞれの立場から取組みにあたっての見通しなどを語ってもらった。

 
  対等・公正・透明な取引実現へ  橋氏
  先を見据えた取組みが必要  岩田氏

■まずは、第3次担い手三法について国交省の取組みからお話し下さい。

 令和6年6月に改正され、基本コンセプトは持続可能な建設業とし、建設業が将来に渡って地域の守り手としてその役割が果たせる業界とすることが改正のポイントです。その中では、担い手の確保に係る働き方改革や賃金をはじめとする処遇改善等が重要な課題ではないかと考えます。賃金に関しては、公共工事設計労務単を12年連続で引き上げ全職種平均は2万3千6百円と過去最高を更新しています。賃金水準を上昇させていくことで、担い手の確保につながるものとなります。
 近年は資機材も高騰していることから単品スライド条項の運用の一部を改定し、実際に購入された価格でもスライド変更をできるような取組みも進めています。工事でも適正価格としてその中で労務費もしっかりと確保していくことが必要だと思っています。
 また、工事契約に関しては、受発注者間のコミュニケーションをスムーズにするため、令和6年2月に「受発注者間コミュニケーションガイドライン」を作成しました。この中ではワンデーレスポンスやウィークリースタンスとともに、近畿地整独自の取組みである工事進捗定例会議等も実施して、時々の進捗状況や課題についてお互いが共通認識を持てるような体制構築にも取り組んでいます。工事書類の削減も大きな課題であり、「土木工事書類作成スリム化ガイド」を作成し、受発注者双方への周知に取り組んでいます。
 担い手不足や生産性向上への対応では、ICT技術の向上など工事環境の変化を踏まえ、監理技術者の専任配置についても、担い手三法の改正を受け、リモートでも複数の現場状況の管理が可能であれば、監理技術者の兼任を認めるとする議論が行われており、そういった工夫により人手が不足する中での工事の円滑化を図る取組みも検討されています。

■担い手三法の改正には岩田会長も建専連の立場で関わってこられましたが、専門工事業としての現況を。

岩田

 改正にあたっては、その視点がどこに向いているか、着地点をどこに置いているかを気にかけていました。特に技能労働者の賃金については、「他産業並みに引き上げる」ということになりました。私的にはそれでも十分ではないと思っていますが、まずは法的な整備が必要であるとしてここまできました。
 賃金については、今はまだまだの段階で、定められた内容をどう進めていくかを、今後1年程かけて具体的に詰めていきます。標準労務費に関し中央建設業審議会では、昨年にワーキングが2回と型枠工事の専門部会が開かれました。専門部会では、標準労務費を設定するため基準となる労務価格と歩掛り、経費を設定し、それらを掛け合わせたものを標準労務費とします。型枠大工の場合は1平方メートルあたり、鉄筋ではトンあたりでの価格帯を示すことになります。
 賃金に関し建専連では、海外の状況調査のため、昨年に欧米等で視察を行いましたが、結果として日本はもっと議論を急がないとまずい状況になると感じました。10年先、20年先を見た場合、外国人労働者の取り合いになることが目に見えているからです。現在、オーストラリアでは外国人労働者に60万円程度支払っています。この状況で日本人労働者の賃金が安ければ外国人が来るわけがない。日本は単価が安いうえ、週休2日による日数制限があるから、特に日給職人は「働かせてほしい」となります。
 今回、日本の仕組みを変えるため、国として法律を変えるということで動いていただいた。法律が整備されれば業界各社も動かざるを得ないという空気感はできたかなとは思っています。

 建設キャリアアップシステム(CCUS)では、各種の取組みと合わせてレベル別年収も公表されています。これにより工事に従事する技能者が技能と経験に応じた処遇を受けられ、若い世代に対しては自らのキャリアパスを見通すことができるようになり、若年世代の入職促進につながるものでは思っています。 

岩田

 ただ、民間工事では未だに関係のない話になっています。CCUSについても必要性すら理解されておらず、地場ゼネコンにその傾向が強いところがある。CCUSの登録者に関しては、一定程度はスーパーゼネコンが主導してきた面もありますが、担い手三法によりお金が行き渡る仕組みが構築されれば、さらに進むと考えます。
 いずれにしろ担い手を確保するための視点をどこに置くかで政策は変わってきます。とりあえずは法改正により全産業並みを目指してここまで来たわけで、次はどこを目指していくかの方向性を示す必要性があります。 
 標準労務費にしても、なじむまでには5年や10年はかかると思っておりますが、仕事が途切れた時にどう効力を発揮できるか。特に民間工事の仕事がなくなれば叩き合いになります。元請だけなく、下請もダンピングをやりますし、むしろ下請の方が多いかもしれません。実際、ある地方では見積書を白紙で出す業者もいます。その状況の中では、職人を抱え社会保険に加入している業者ほどやらざるを得なくなる。これは派遣法にも関わるもので、それもクリアしなければならない問題です。

  求められる「建設業ならでは」の働き方改革
 

■処遇改善についての取組みはどのように。

 ダンピング対策として、受注者が発注者に提出する請負代金内訳には、法定福利費を明示することとしています。見積書の法定福利費内訳明示に関しては、調査によると2次・3次下請が提出した割合は前年度よりは微増していますが、下にいくほど提出する割合は減少していきます。また、法定福利費を明示した見積書を提出した場合で、1次・2次の下請に対し法定福利費全額が支払われたものは微減となっていますが、これは民間工事の動向に左右されている面もあるかと思われます。
 やはり公共工事と民間工事では大きな差があり、内訳明示については公共工事が7割、民間工事では4割となっています。今後、下請企業による法定福利費の内訳を明示した見積書の提出と元請による下請の見積書の尊重が徹底されるよう、民間工事も含め、調査を含めた取組みを引き続き実施していきます。

岩田

 いろんな意味で先を見通したうえで、今やらないといけないと思っています。世界と互角に戦っていくための目標値を今のうちに設定し、それに対してどう動くかを考える必要があると思います。そのためには海外の状況を感じる必要があります。
 アメリカでは、公共工事にしても民間工事にしても、先の工事量が見込めることで働く場所がいくらでもある。また、職業訓練学校生も建設業を選択しているので、建設業を目指す人が増えているというデータがあります。その要因としては雇用の安定と高賃金に加え、教育システムがしってかりとしています。一つの資格を取得すれば、賃金のベースアップが見えてくる。また、アメリカの教育機関では五年間の教育を受ければ、卒業後には1千5百万円は稼げるとしています。このため、大学に進学するより訓練校を勧める親や家族も多いとされています。当初は反対していても稼げるようになると変わってくる。
 これに対して日本は賃金が安すぎるうえ、教育する場所もなければ仕組みもない。その辺が担い手確保や処遇改善においてもネックとなっている。また、いくらお金が稼げるといっても教育を現場のOJT任せでは持ちません。きっちりとした教育システムが構築されているからこそです。
 今年は型枠工種の関係者とラスベガスの教育機関に視察に行く予定です。その教育機関では、現場で働きながら土日に学校でトレーニング受けることで、4年間で6千万円稼げるとしています。技量や技術が上がるごとに昇給していくシステムで、その仕組みが見えているからこそ、希望者が増えています。

■「現場で怒られながら育つ」という時代ではなくなりました。

岩田

 いくらお金を払っても教育を現場のOJT任せでは持ちません。欧米(イギリス・アプレンティスシップ)の場合、その教育機関自体が財源を持っているから可能になります。財源は、全産業の労働者から0・5%徴収し、それに建設業の場合は0・35%加えた0・85%を教育財源に充てています。徴収した財源は基金のように積立てて、賃金とは別にそこから有給休暇分が支払われます。
 日本でもこういった体制にしないと処遇改善も担い手確保も進まないのではと思っており、そのための取組みにあたってはどこに視点を置くが重要となってきます。ただそれは我々の時代ではなく、次世代の取組みであり、そのための方向性を決めていくのが我々の役割だと思っています。

 海外と日本とのギャップがありすぎて、そこをどう埋めるかですね。 

岩田

 ただ、それを日本でやる必要があるかどうかは、それぞれの考え方があり、欧米は物価が高いからそうなっているわけです。しかし、間違いないことは、10年先には技能労働者の25%は退職します。全鉄筋傘下の鉄筋工の28%は外国人で、この状況で25%がいなくなれば技能工の半分は外国人になります。さらに処遇改善が進まなければ、現在の四十代や五十代の技能工が現場で働き続けているかどうか疑問です。

■処遇改善について海外との違いはありますか。

岩田

 欧米では、大学教授より技能者の方が賃金は高いですが、それは社会的地位などではなく、技能者が身体を酷使し、危険な仕事に従事しているからです。日本では新3Kと言われていますが、従前からの3Kは変わりません。ですからどこを見て処遇改善するかで、現状では、とりあえず標準労務費をどこかに着地させてスタートし、建設Gメン・下請Gメンの方々にサポートしていただき、元請が発注者からそのお金を支払ってもらうような方向へ持って行く。そういった気運醸成が必要です。

■処遇改善では、元請と下請の関係性が重要です。

 元請・下請の対等な関係構築と公正で透明な取引の実現を図るため、立入検査等を実施して注意喚起や指導監督等を行うことで法令遵守と契約適正化に向けた取組みを推進しています。また、令和3年度より公共工事と民間工事の元請を対象に、標準見積書の活用状況等をヒアリングするモニタリング調査を開始し、発注者へも労働基準監督署の職員を同行した工期特化モニタリング調査も行っています。さらに今回の第3次担い手三法では建設Gメンにより請負代金や労務費、工期の三点を重点に発注者、元請、下請に対して調査を行って取引の適正化を図っていきます。

岩田

 コロナ禍においては、自粛期間中でも建設労働者はエッセンシャルワーカーと言われ、現場に入っていました。止まっている現場もありましたが、大半は稼働しており、我々も一種の使命感を持って現場に出ていたわけですが、技能工の中には奧さんから、「周りが自粛しているのに何故働いているのか」と言われ辞めっていった人もいます。そのうちの何人かは物流関係のドライバーに転職しましたが、それこそコロナ禍では医療関係者と物流関係者はエッセンシャルワーカーとして社会から認知され、賃金も上昇しました。それに対して建設業は見向きもされなかった。社会が認めないと賃金も上がっていかない。そういった社会的な評価も処遇改善につながればと思います。

■働き方改革の取組みとして労働時間短縮と生産性向上について。

 生産性向上に関し国交省では、アイコンストラクション2・0により2040年までに現場のオートメーション化をできるだけ図っていくことしています。建設従事者の高齢化や労働人口が減少する中で、将来的建設従事者が増えることは難しい状況では、オートメーション化の部分を増やさなければならないと考えています。完全オートメーション化は無理ですが、大手ゼネコンではいろんな形で既に導入されています。ただ、ある程度はオートメーション化しても、どうしても人手に頼らなければならない部分はあり、その部分での賃金を上げていく等のやり方は出来るかもしれません。

岩田

 欧米では地震が殆どなく、建物構造もPC化が容易ですが日本ではそうはいきません。そのためオートメーション化には限界がありますが、そこには設計も大きく関わってきます。オートメーション化をはじめとする効率化や生産性向上には全て設計が関わってくると思いますが、その辺は議論にはなっていません。

■週休2日の取組みも重要です。

 国土交通省では週休2日を進めていくというスタンスで、直轄工事ではほぼ、4週8休は達成している状況です。これをさらに進め、工期全体での取組みから月単位での取組みとし、また、近畿地整独自の取組みでは令和6年度から原則、維持工事等を除き、土日の現場閉所を前提としたほか、予定価格3億円以上の工事は、祝日も現場閉所とする土日閉所指定型を試行実施しています。
 休日を増やして定期的に休みが取れるようにするもので、若者の多くは就職先を選ぶ時、やはり土日が休みのところを選びます。現在、建設現場において週休2日制に向けて段階的な取組みを進めていますが、やはり職人さんが月給制にならないと完全週休2日制は難しく、現状ではどうなっていくかが見えない状況です。

岩田

 週休2日に関しては、公共工事で率先して進めていただいております。一方、民間発注者のスタンスとしては、たとえば、現場に対しては土日は休んでも自由だが、「工期は変えない」という考え方もまだまだ根強く、こちらが要望しても、結局はその条件で請ける業者を探してくる。
 建専連としては大手ゼネコンに頑張ってもらいたいですが、できればフレックス制を導入してもらいたい。予め休日を決め、作業員が休みたい時に休める環境づくりができればと。特に夏場は生産性が低下するので長期的に休み、春先は土日ではなく日曜だけ休みにするなど、働き手の目線、建設業ならではの休み方が必要だと思います。

 公共工事においても完全週休2日は通常の工事に適用しており、災害復旧工事は対象外です。このため、工事従事者が個人レベルで週休2日が確保できるよう週休2日交代制モデル工事として試行しています。ただ、全体的には土日閉所の流れであり、建設業への入職促進は土日閉所をベースに、緊急的な工事等は特例とするやり方が必要ではと思います。また、昨年は元請団体から猛暑対策への要望が多くありました。先程言われたフレックス制やサマータイムの導入を求める意見もありました。

岩田

 週休2日を段階的に進めていくことは必要ですが、何故か特例は認めないとする雰囲気みたいなものはあります。また、新卒を採用している業者は、既にそういった取組みを取り入れており、その条件で入社した人は休めますが、現場を止めるわけにはいきませんから、古くからの従業員がカバーすることになる。そこのギャップをなくしていきたい。
 専門工事の場合、自社の就業規則があっても現場の状況に合わせているのが現状で、そこの議論が全く行われていない。猛暑対策にしても建設4団体と大臣との意見交換で、7月から9月までは完全土日閉所を目指すことになりましたが実現できておらず、また、これは休日問題に限らず労務費に関しても同じです。
 元請と下請との関係性や従来からの商習慣の見直しなども必要ですが、請負には請負の良さがあり、職人についても全てが固定給が良いとは思わない業者もいますが、今回の法改正により賃金のアップとともに土日休日を進めていただきたい。このため建設Gメンの方々には、民間工事も含めてしっかり見ていただきたいと思います。

 厳しい状況が続いていますが、我々としてもいろいろと意見やお話を伺いながら、しっかりと対応していきたい。今後も協力をお願いします。

■これからもそれぞれの立場でご尽力下さい。ありがとうございました。

 
 


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