日刊建設新聞社   CO−PRESS.COM
    令和8年新春特集号対談       【2026年01月05日掲載】
 
    新たな建設業の姿をめざして
          第三次・担い手3法が全面施行
 
「労務費の基準」に高まる期待
地方自治体・民間への浸透が課題

近畿地方整備局企画部 野坂周子部長
建設産業専門団体連合会 岩田正吾会長


岩田会長 野坂部長




 建設業法・入契法・品確法を一体改正した第三次・担い手3法が昨年12月12日に全面施行され、国が労務費の基準を設定するなど他に例を見ない取組みが本格的に実施される。こうした中、近畿における建設行政を先導する近畿地方整備局の野坂周子企画部長と、労務費の基準設定に携わってきた建設産業専門団体連合会の岩田正吾会長に、それぞれの立場で取組みにあたっての課題や見通しについて語ってもらった。

   野坂氏 「若者の入職増やし、担い手確保を」
 
   岩田氏 「処遇改善を可能とする標準労務費」

■まずは第三次・担い手3法の改正の経緯と概要についてお聞かせください。

野坂

 建設業は、社会資本の整備・管理の主体で、また災害時における「地域の守り手」として、国民生活や社会経済を支える極めて重要な役割を担っています。その建設工事の適正な施工及び品質確保と担い手確保のため、平成26年及び令和元年にそれぞれ、担い手3法と新・担い手3法として建設業法・入契法と品確法を一体として改正し、この10年間で様々な成果を得てきました。
 しかしながら、厳しい就労条件を背景に、依然として就業者の減少が著しく、建設業がその役割を将来にわたって果たし続けられるようにするためには、現場の担い手の確保に向けた対策を強化することが急務で、これらの課題に対応し持続可能な建設業の実現と、そのために必要な担い手の確保を目的とする第三次・担い手3法による関連法の改正が令和6年6月に行われ、令和7年12月12日から全面施行されました。

■今回の改正では、処遇改善と資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止、働き方改革・生産性向上がポイントです。

野坂

 建設工事では、労務費の相場が分かりづらい等の事情により、労務費はしわ寄せを受けやすく、また、労務費等を適切に確保し処遇改善に積極的な建設企業が競争上不利な状況に置かれやすい実態があります。このため、改正建設業法では、中央建設業審議会が「労務費に関する基準」を作成・勧告する権限が創設され、技能者の賃金水準の適正化を図る仕組みが整備されました。
 受注者及び注文者の双方に、「労務費に関する基準」を著しく下回る労務費等による見積書の作成や変更依頼を禁止するとともに、受注者による総価での原価割れ契約を禁止する新たな規定を設けたものです。これにより、注文者・受注者である建設業者が「労務費に関する基準」を著しく下回る労務費見積り提出や見積り変更依頼を行った場合には、指導や監督処分の対象となります。
 また、非建設業者の発注者の場合は、国土交通大臣等による勧告・公表の対象となり、さらに、これらの規制の実効性を確保するため、国土交通省では「建設Gメン」による現場調査を通じて、契約内容や見積りの実態を把握し、必要に応じて指導・是正を行う体制を強化しています。

岩田

 処遇改善の実現にはどうすれば良いのかと。それで標準労務費にたどり着いたわけです。標準労務費は建専連として標準的な請負単価を設定すると公表したことから始まり、当初は物議を醸しました。そこで独禁法の権威、上智大学の楠茂樹教授(現筑波大学教授)にアドバイスをいただきながら前に進めました。楠教授からは「建設業は破滅的競争をやっている」と指摘もされましたね。並行して国との協議においては、賃上げを要請しているのは国であり、総理大臣が決意表明したからといって、業界側に丸投げされても困ってしまう。それなら価格転嫁を強力に促し、賃上げできるような仕組みを国でつくってほしいと要望しました。ほどなく「持続可能な建設業に向けた環境整備検討会」が立ち上げられました。

野坂

 労務費に関しては、「労務費に関する基準」が導入されることにより、見積りや契約の場面で取引の透明性と公正性が一層確保されることが期待されます。適正な見積り促進等による契約時の適正な労務費確保、受発注者双方への総価での原価割れ契約の禁止による労務費以外の必要経費へのしわ寄せ防止、確保された賃金の原資となる労務費が賃金として技能者に支払われることを担保するための施策の実施、建設Gメンによる個々の請負契約の調査、許可行政庁による強制力のある立入検査等の適切な実施及び改善指導等により、実効性を確保します。
 また、改正建設業法の「労務費に関する基準」に関連する規定等の施行と併せ、その円滑な運用に向け各種ガイドライン類が新たに作成、改正され、公表される予定です。今後も引き続き、WGや意見交換会等において、「労務費の基準値」や「実効性確保策」等について、多様な関係主体と連携して検討が進められることになります。

■処遇改善とCCUSとの関係性や位置付けなどはどうお考えでしょうか。

岩田

 建専連ではレベルごとの最低年収を出しました。つまり、標準労務費が流れてくれば、最低これだけは流すとコミットメントした。会員からは「最低では意味ないのでは」という声もありましたが、やはり、お金が安定すれば、次は質でしょうと。どんな専門工事会社を選ぶかになってくる。見える化も重視される。民間発注者にあっても、持続可能性を謳ってここまできたわけです。従って、人を採用せずに外注ばかりに頼っている会社と、直用工でしっかり若い人を育てている会社のどちらを選ぶのかというと、後者を選ぶ。つまり、お金が安定すれば良い会社を選ぶんです。このような「質の競争」に変えていかないといけない。同時にブローカーの排除も不可欠で、ちゃんと直用している会社が選ばれる仕組みを構築すること。決してブローカーを同じ土俵に立たせてはならない。
 CCUSについては、私自身、能力評価だとは思っていません。CCUSは資格と経験年数を評価するもので、働き手、職人さんの権利を明確に示したものです。能力を評価するのはあくまで雇い主、事業主であり、CCUSだけでは処遇改善にはつながりません。

■標準労務費が担い手の確保・育成の原点だといえます。

野坂

 建設業就業者は55歳以上が約3割、29歳以下が約1割で、10年後には大量離職が見込まれるなど、他の産業に比べて高齢化がより進行しています。今後、若手の入職者が見込まれなければ、10年後には建設業従事者が不足する可能性は非常に高いと考えられ、担い手確保は喫緊の課題です。
 若い人材の入職を増やし、建設業の担い手を確保するためには、建設業が製造業など他産業と比べて「給与」が良く、「休暇」が取れ、「希望」が持て、それにプラスして「かっこいい、または快適」と思われる業界にすることが重要だとされています。岩田会長は、若者が夢を描ける処遇改善を目指すと掲げられていますね。

岩田

 海外視察に行ってからその思いは強くなりました。アメリカ視察の折、ユニオンの会長から「なぜ、日本人はそんな低賃金で働くのか」と言われました。日本国内では「日本の建設技術は世界一だ」と自負しているにもかかわらず、「賃金は他国に劣る」。何とも言えない気持ちになりました。
 また、アメリカでは今後も建設市場の成長が見込まれ、腕を磨けば、自分のペースで仕事をして稼ぐことができる。日本のように終身雇用のシステムはありませんが、現場で働く人の多くが、身内に建設業への入職を勧めるということでした。

     質の競争へ  マインドチェンジ促す

■「建設業は稼げる、いい仕事だ」と思って働いているのですね。

野坂

 給与に関して言えば、設計労務単価が13年連続で引き上げられており、建設業生産労働者の賃金推移をみましても賃金は着実に上昇しています。また、品確法運用指針では、受注者の協力の下、発注者は下請業者への賃金の支払いや労働時間に関し、その実態把握に努める旨が規定されています。直轄土木工事においては、『下請業者への労務費の支払いや技能労働者への賃金の支払い』について、受注者希望方式で、試行的に調査を実施する旨が令和7年11月に公表されました。
 この調査により、発注者が賃金の支払いや労働時間等を把握することを通じて、受発注者間での「見える化」が進むことを期待しています。特に、下請業者への労務費の支払いの把握により、賃金を原資とした低価格競争を抑止し、価格や真の技術を競う等の公正な競争環境を実現し、また、技能労働者への賃金の支払いの把握により、適正な賃金が確保され、担い手が確保されることを期待しています。

■近年ではICT施工や建設DX等による業界として魅力アップを図っています。

野坂

 コロナ禍において建設従事者は、エッセンシャルワーカーでしたが、物流のトラックドライバーとは異なり、社会的にはあまり認識されていなかったのではないかとの問題意識があります。令和2年度の第1次補正において、初めてインフラDX予算が計上されました。この予算要求に関わる機会を得たのですが、その際、コロナ禍にあっても道路に不具合が出れば直さなければいけないし、河川が氾濫すれば手当てをしなければならないエッセンシャルワーカーとしての建設従業者の意味を噛みしめていました。
 インフラDXを推進するにあたっては、令和5年度には、国直轄工事についてはBIM/CIMを原則化すること等を目標として掲げました。立ち上げ当初はなかなか理解を得られなかった世界でしたが、現在ではいろんな場面でDXや、BIM/CIMの文字を目にするようになり、この方向性が建設業界に貢献していっていることを実感します。
 デジタル技術とデータの力により、インフラの生産性を高めるとともに、新たな価値を創出する建設業となる必要があると考えておりますが、当然、公共事業だけでなく、民間事業においても同様の取り組みが進められる必要があり、「魅力ある建設業界」を目指して官民が連携して取り組んでまいります。

■休暇に関しては、週休2日も定着しつつありますが、ここ数年は酷暑日が続き、夏場の働き方が課題となっています。

野坂

 令和7年度からは維持工事等を除く全工事を対象に土日を現場閉所とする「完全週休2日」を実施しています。週休2日制も当初は各建設業協会でもなかなか理解してもらえなかったこともありましたが、ここ何年間では着実に根付いてきています。直轄工事がまず先導して実施してから、地方自治体へ普及させるとした仕組みが効果的に機能していると感じています。
 一方、夏場の工事では課題も多くあります。

岩田

 やはり、もっと人にフォーカスすべきです。土日に休むということが若い子に響くのかというと、もうその次元ではない。それは当たり前なんですよ。人材獲得競争において建設業界は相当遅れをとっている。同じお金を払ったとしても製造業と建設業だったら向こうに行ってしまう。こんなしんどい仕事はやりたくないと。昔はたくさん稼ぐことができたから建設業に若い人を呼び込むこともできました。

■他産業と強烈に差別化できる働き方が求められます。

岩田

 たとえば、「建設業では子供と一緒に夏休みを過ごせる。こういう産業に来ませんか」と。一歩踏み込んだキャッチーな施策を掲げていきたい。建設業は働き手が求める休みを提供するんだと。暑い夏は休み、気候の良い春や秋に働くことで年間労働日数を確保する。異論もあるでしょうが、それに向けてどんな課題や問題があるかを探るためにも踏み出すことです。そのつかみとして「夏休みを取ろう」と呼びかけていますが、根幹はフレックスです。働きたい時に働ける環境を提供できてこそ初めて他産業と戦える。そう確信しています。

■標準労務費に話を戻しますが、賃金原資が確保されると、次はそれが行き渡るかどうかが課題です。

野坂

 中小の建設業者や一人親方も含め、労務費等を内訳明示した適正な見積書を作成する商慣行が形成されるよう、取組を進めることが適切になります。その際に元下取引において、注文者側の詳細な見積条件等の提示と適切な見積作成期間の設定、受注者側の見積書作成を促進するための環境整備等への配慮が必要となります。
 特に建築工事では、改正法施行時点において、材料費、労務費、機械損料、経費等が内訳明示されていない総価一式での取引が一般的となっている職種・工種が多いことに留意し、専門工事業団体が標準見積書の見直し・作成・利用促進を進めていただく必要があります。

岩田

 言うまでもなく担い手確保は待ったなしの状況にあり、私も各地区の建専連を回り、「お金をもらったら払う」から「お金をもらって払う」商習慣の構築を訴え続けてきました。しかも、今回は法律の改正であり、廉売行為、すなわち、われわれが不当に安く入れる行為を縛られるのだと。ただ、その前提として企業がしっかり生きていける経費を確保しなければならない。
 担い手3法では、労務費とあわせて「法定福利費」「安全衛生経費」「建退共掛金」の3つの必要経費を内訳明示することになりましたが、ほかにも「雇用に伴う必要経費」は発生します。それらをゼネコンさんに分かりやすく明示するため、現在、建専連として項目を改めて精査・整理しているところです。見積りを提出する際に「この経費はどっちが持ちますか」と具体的に示すことで交渉もしやすくなりますし、建設Gメンが立ち入った場合にもチェックしやすくなると考えています。

野坂

 標準見積書を普及・促進させるには、発注者、元請、下請とサプライチェーン全体で、相互にとって、見積作成交渉がしやすい形とする必要があるため、引き続き、発注者、建設業関係者、国交省において議論させていただきたいと思います。業界団体の皆様には労務費に関する基準の趣旨をご理解いただき、見積書の標準化と内訳明示の取組を会員企業とともに推進していただきますようお願いいたします。

岩田

 国および元請、専門工事会社で統一のフォーマットができ、共通理解が進むことで、経費などのチェックもスムーズになるでしょう。
 たとえば建退共に関しては、スーパーゼネコンさんでは既に、土木・建築、公共・民間問わずご負担していただいています。かたや、ご負担していただけないゼネコンさんも多い。「民間工事は負担できません」と。この場合、下請を抱える1次業者が負担していました。しかし改正業法により、今後は必要経費として明確に定義され、これまでご負担していただけなかったゼネコンさんにも請求することになります。
 めざすべきは、適正な経費を積み上げたゼネコンさんが受注できる仕組みに転換していくこと。価格評価だけでは安きに流れるのは当然ですよ。これまでの「安ければ良い」のマインドを大胆に変えていかないとダメです。先日、金子恭之国土交通大臣にもお伝えし、ご理解いただきました。

野坂

 そのためには、発注者と元請建設業者の間の見積りに際しての留意点を整理するとともに、「専門工事業者向けの見積書の様式例及びその解説」「専門工事業団体向けの標準見積書の作成手順」等の見積書の作成を容易化するツールを公表するなど、実効性確保策を講じることが適切になってきます。

■地方自治体へ波及させることも重要です。

岩田

 建専連としても都道府県単位で地方自治体、特に地方議員に対しては今後、さらに積極的に働きかけていきます。
 現在、公共事業のうち、土木工事の殆どは4週8閉所を実施していますが、それは、設計労務単価並みのお金が適正に流れてきているから可能なわけです。設計労務単価については、本来は見積基準であってそのまま支払うものではないとされてきた。対して、今回の改正業法では民間工事においても設計労務単価並みのものを流すことを目的としています。これが大きい。当然、地方自治体は率先して取り組まなければならない。

野坂

 地方自治体に対しては発注者協議会を通じて、これまでも工事平準化や週休2日、ダンピング対策についての目標値を設定して取組を進めております。民間工事についても、技能者の処遇改善、価格転嫁、そして働き方改革の推進に取り組んでいます。
 具体的には、発注者や建設業団体に対して要請文書による働きかけや、実態把握のためのモニタリング調査の実施などで民間工事への浸透・波及を図ってきました。こうした取組は、技能者の賃金水準の向上や適正な工期の確保、週休2日制の導入促進など、現場の改善に一定の成果をもたらしてきたと認識しています。
 さらに第三次・担い手3法により、これらの取組を制度面からも後押しできる環境が整いました。今後は労務費に関する基準に基づき、著しく低い労務費等による見積り提出や見積り変更依頼が禁止され、違反した場合は建設業者には注文者・受注者ともに指導・監督処分、違反して契約した建設業者でない発注者には国土交通大臣・知事による勧告・公表がされることになりました。
 このほか、価格転嫁の仕組みが制度化されたことや、受注者による著しく短い工期での契約締結の禁止など、働き方改革に資する規定も整備されており、民間工事においてもこれらの取組が着実に浸透することが期待されています。

岩田

 本日、私が最もお願いしたかったのが、周知レベルになると思いすが、地方自治体の入札・契約をいかに変えていくのかということ。地方自治体においてはそれぞれのモノサシで発注しているわけじゃないですか。そこをなんとか統一できないものかと。依然として調査基準価格や最低制限価格に張り付くような仕組みになっています。職人を雇用し、社会保険に加入して納税義務も果たしている業者ではなく、「金額が安いから」と職人も雇わず丸投げする業者と契約するのは、公共事業においてどう考えてもおかしい。

野坂

 その辺りの仕組みも変えていく必要があります。

岩田

 先ほどもふれましたが、何とか地方議員の思考回路を変えたい。ここに尽きます。もちろん、われわれも地方政治家とも議論し、提案できる組織体となる必要があります。
 この先、ダンピングが繰り返されることのないよう、標準労務費を実装化して有効に使えるものにする。その第一歩となるのが地方自治体だと位置づけています。国と地方自治体の発注工事において標準労務費、設計労務単価並みのものを流すということが定着すれば、民間工事は一気に動き出すとみています。それにつれて、一人親方や偽装請負の問題も解決していくでしょう。
 そして、次のテーマは派遣法。つまり、繁閑調整をどうするのかが課題です。職人を抱えている会社ほど、仕事が減ったときに廉売せざるを得ない状況に追い込まれ、せっかくの標準労務費の法律も無力化してしまう。だからこそ、CCUSに登録している直用の職人を正々堂々と融通できる制度の確立が求められます。何とかこれに道筋を付けたい。
 最後に、今回の改正業法の全面施行にあたり、ご尽力いただいた国交省の職員の方々に心より感謝を申し上げたい。まさに前例のないケースであり、かつ、タイトなスケジュールの中、われわれの想像を超えるご苦労もされたと思いますが、見事に成し遂げていただいた。そのことを念頭に置き、建設業界全体としても覚悟を持ち、周知徹底していかなければなりません。

■やはり、国のリーダーシップが不可欠です。

野坂

 今後は、これらの制度を実効性あるものとするため、引き続き発注者や業界団体への働きかけを行うとともに、建設Gメンによる現場調査や指導を強化し、民間工事においても処遇改善・価格転嫁・働き方改革の取組が定着するよう、国土交通省として全力で取り組んでまいります。

 
 


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